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連載小説「オボステルラ」 【第二章】41話「仲間達に」(1)
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仲間達に
卵騒動の日の夜。
女装バー『フローラ』の看板には明かりは灯らない。
帝国男達に嵐に荒らされた店内。割れた酒瓶などは大方片づいたものの、壊された内装や家具類はどうしようもなく、今日は休業だ。イスが壊され、ソファが割かれ、棚も何ヵ所かバキバキに折られ、カーテンは破られ…。
「…さて、何日で再開できるかしらね…」
ナイフは、その惨状を改めてしげしげと見つめ、そう呟いた。
キャスト達には、ひとまず5日間の休みを伝えている。もちろんロベリアも寮へと戻した。
それにしても、卵を探すだけではここまでする必要はないだろうに、見せしめのように店を荒らしていった帝国男達に、腸が煮えくり返ってくるナイフ。その表情を見て、カウンターに座っているリカルドは思い出し笑いをした。
「まあ、もっとひどい事が前にも何回かあったじゃないか。直近は何だったっけ? 確か、ローズちゃんを取り合っていた男達がどちらも違う街のギャングの頭で、この店で抗争もどきが始まって…」
「ああ…それもあったわね…。そのときに比べたら、まだマシかしらね。あのときは店に血だまりができたから、床を張り替えたのよね……」
ふう、とため息をつき、カウンターに入るナイフ。
「お酒もだいぶ割られちゃったし…。また仕入れ直しだから、もう今日は残った酒の処理でタダ酒でいいわよ。飲む?」
「そうだね。今日は何となくヤケ酒したい気分だね…」
リカルドは、ヒマワリに蹴られたアゴをさすりながら、肩をすくめた。
「ゴナンの様子をちょっと見て来てからにするよ」
「そう? 私は先に始めておくわよ」
酒瓶を何本かまとめて、無事なソファの席へと持っていくナイフを見届け、リカルドは2階の自分の部屋へと向かった。
「ゴナン、入るよ」
そう声をかけて入る。ゴナンはまたベッドで寝込んでいた。熱が上がった上に、首の切り傷もあって、かなり辛そうだったが…。
「あ…。リカルド…」
ゴナンが目を覚ます。
「ごめん。起こしちゃったね」
「大丈夫…、昨日まで程は、辛くないから…」
ゴナンが少し強がってみせる。リカルドはゴナンの額に手を当ててみた。
「うん、そうだね。さっきよりは熱が下がってる。薬が効いたかな?」
「ねえ、俺はもう大丈夫だから、リカルドもベッドに寝ようよ。いつも椅子で寝てるから心配だよ」
「うん、ありがとう。でも大丈夫だよ。俺は多少無理したって平気なんだ」
「…?」
にっこり笑うリカルドに、ゴナンは怪訝な顔をする。
「リカルド、いつもそういう言い方するよな…」
「そうだっけ? …まあ、ともかく、今日はお店も休みらしいから、下でナイフちゃんとお酒飲んできていいかな? 明日はベッドで寝るよ。ゴナンの調子が悪くなってなければだけど」
「うん」
ゴナンは少しホッとしたように返事をした。また寝るように促して、リカルドは部屋を出て1階へと戻ってくる。
と…、ミリアとエレーネも1階に降りてきていた。もう休むところだったのか、部屋着に着替えているエレーネが碧眼に憂いをためている。
「どうしたの?」
「ミリアが巨大鳥に乗ってきたルートをメモした地図が盗まれたみたいで…。別の地図にもう一度書き起こそうと思って、テーブルを借りに降りてきたの」
「……!」
ヒマワリの仕業だろうか? そういえばあの時、興味なさそうにしつつも地図をジロジロと見ていた。リカルドはナイフと顔を見合わせる。
「他に盗られているものはなかった? 地図だけ? ミリアの金貨は?」
「え、ええ、わたくしのものでなくなっているのは、あのバッグだけ」
「私も大丈夫よ。でも、あの地図、いつの間に盗られたのかしら…」
不思議そうに首を傾げるエレーネ。ミリアはともかく、エレーネは施錠などきちんと警戒しているように思えるが…。
「ヒマワリちゃんの正体を見抜けていなかった私の落ち度ね」
ソファ席ですでに1杯やりながら反省するナイフ。リカルドもナイフの対面に座る。
「うーん…。まあ、あの子なりの計画で『フローラ』に潜入していたんだろうけど、正体も何も、彼はこのお店ではあんまり演技はしてなかったように思うなあ。隠しごとをしているだけで。素であんな子だから、ナイフちゃんが違和感を覚えなかったのも仕方ないんじゃない?」
「そうね、確かに、素ね…。だからこそ、惜しい人材でもあるわ、お店的には……! しっかり売上を稼いでくれてたから……!!」
少し悔しそうにしているナイフ。もう、お酒が回ってきているようだ。ふふ、と笑ってその様子を見守り、リカルドはエレーネに声をかけた。
「エレーネも1杯どうだい? 今日はタダ酒でいいそうだよ」
「あら、そうなの? いただこうかしら」
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そう言ってラウンジの方に向くエレーネに、ミリアも少しワクワクした顔で付いてくる。が、リカルドは手で制した。
「ミリアはダメ。ここからは大人の時間。お部屋に戻ってね」
「……」
少しふくれっ面で、何かを言いたげな瞳でリカルドを見つめるミリア。
「そんな顔をしても無駄だよ。おやすみ。地図は明日でもいいだろう」
「……ええ、おやすみなさい」
「ちゃんと鍵は閉めるんだよ」
少し不満そうにしながら、1人で2階に上がっていくミリア。その後ろ姿を見送って、エレーネも2人が飲むソファ席の方に来た。
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