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連載小説「オボステルラ」 【第二章】14話「その少女の理由」3
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「もう、2度と…?」
その強い言葉に、リカルドは驚いて思わず聞き返した。
「ええ、もう2度とわたくしがお城に戻ることはないわ」
「なぜ?」
「…だめなの、わたくしがいては、この国は不幸になるから。わたくしは不運の星の下に生まれているの…」
「?」
不運の星、とは、リカルドも聞いたことがない言葉だ。
「不運の星とは? どういうこと?」
その質問に、ミリアは自嘲気味に笑って答える。
「わたくし、子どもの頃からお城ではとても気味悪がられているの。周りで必ず不幸が起こるって…。そうね、例えば…」
苦しい表情で、思い出しながら話を続けるミリア。
「…わたくしに付く侍女は、必ず病になったり里の家族に不幸が起こるの。わたくしのお付きの騎士の頭上にシャンデリアが落ちてきたこともあるし、わたくしと遊んでいたお友達がケガや病気になるのは日常茶飯事。わたくしが出席した会食で、わたくし以外の全員が食中毒になったこともある。誕生日は、毎年いつも雨か雷」
「……」
「そもそも、私が産まれた日、15年前。北部の国境沿いでエルラン帝国の侵攻がちょうど始まった日だったのよ。急襲で、ひどく死者が出た戦いだった」
「ああ、確かにあれはひどい戦いではあったけど…」
「お母様が心配して、解呪士を呼ばれたこともあるのよ。でも効果はなかったし、そのあとお母様も病気になられてしまって…」
確か、王妃は2年ほど前から病気療養中で、城を出て離宮で静養しているという情報がある。
「…その、それは気のせいではないの? 運・不運なんて、気の持ちようというものも、あるわよ」
「でも、人も、死んでいるのよ…」
ナイフの励ましに、ミリアは吐き出すように言った。
「このままわたくしが成人すると、きっとこの不運の星は国全体に及んでしまうわ。でも、わたくしの代わりに、影武者のサリーが王女になれば、きっと変わる…」
「え…?」
「だって、今は誰も本物の王女を知らないじゃない。影武者が本物になっても、国民にとっては関わりのないことだわ。そしてその方が、きっと皆が幸せになれるから。サリーはとても明るくて賢くて、人に好かれる魅力を持っている子なの。彼女が王女に相応しいわ。お城の人たちは、サリーとわたくしのどちらが王女か分かっていないけど、きっとサリーの方が本物であってほしいと願っている」
突然、突拍子もない方向に話が向かい、早口でまくし立てるミリア。
「あの、不幸を振りまく巨大鳥のお話。あの言い伝えは、わたくしのことを象徴している話だと思っていた。するとある夜、あの鳥がわたくしを迎えに来た…。これはもう運命だと思ったの。だから、わたくしができることは一つだけ。あの鳥が卵を生んだら、それで願いを叶えるの。サリーが王女になりますようにと」
まっすぐな眼差しでミリアはそう語る。これまで見せてきた聡明で思慮深い言動からは想像もつかないほど、飛躍した発想と行動だ。
(何か、ここまでに彼女を追い込むような出来事があったのだろうか…?)
リカルドは、ミリアの話に少しだけ違和感を感じていた。何かは分からないが、大事なことが抜けているような…。
「ね、だからわたくし、いえ、本物の王女は、城に戻るわけにはいかないのよ」
そう言い切るミリア。たまに影武者設定を思い出す。
「ね、じゃないわよ、ミリア」
ナイフは頭を抱えていた。ここ数日で彼女が頭を抱える姿を見るのは何度目だろうか。
「その話も全然、納得はできないんだけど…。そもそも、城に戻らないとしても、これからどうやっていくつもりだったの? あなたはこれまで城から一歩も出たことがない、お金と言えば金貨しか知らないような、深窓のご令嬢なのよ?」
「リカルドとゴナンは鳥と卵を研究して旅をされているのでしょう? でしたら、わたくしも同行させていただきたいわ」
「いや、それはだめだよ!」
リカルドは少し焦ってミリアの案を否定する。その勢いに、彼女はハッと気付いた。
「…いえ、そうね。わたくしの不運の星が、あなた方にも不幸をもたらしてしまうわ…。もしかしたら、わたくしをかくまったせいで、このお店も…」
そのミリアの言葉を聞いたゴナンは、何かを言おうとしたが、そのまま口をつぐんだ。リカルドはその様子を不思議に思いつつも、ミリアに理由を説明する。
「いえ、そうではなく、縁もゆかりもない、今日会ったばかりのまだ15歳の少女を、男性2人の旅に連れて行くなんて…。たとえあなたが王女、の影武者、でなくても、まずいと思うよ……」
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と、「ただいまー」とお店の入口から声がした。買い出しに出ていたキャスト達が帰ってきたのだ。
「…ひとまずどうするかは、追って考えよう。ミリア。すぐに軍に突き出すようなことはしないから」
リカルドは一旦、場を閉める。そして小声でミリアに声をかけた。
「きみが影武者であるということは、ここのキャスト達にも言ってはだめだよ。きみはただのミリア」
「…わかったわ」
「…ちょっとお待ちなさい、リカルド、ということは…?」
ナイフがリカルドの耳を引っ張った。
「…王女様をうちに泊めろっていうんじゃないでしょうね?」
「え? それ以外に方法はないでしょう? たった1人宿屋に置いていくのも心配だし…」
「あなた、うちの2階の部屋を宿屋と勘違いしているようだけど、本来は酒場の貸部屋なのよ。青少年の教育上よろしくない場所なのよ」
この街に限らず、このような酒場の2階には、『そのための部屋』が備えられていることがほとんどだ。「フローラ」の場合は女装バーという特性もあって、使われる頻度はそこまでは高くはないが、とはいえ、である。
「頼むよ…。護衛という面で言ったら、軍を除けばナイフちゃん以上に頼りになる存在を、この街では知らないんだよ…」
「あなたね…」
じろりとリカルドをにらむナイフ。リカルドはいつもの微笑みだ。
「いやな笑顔ね。分かったわよ。部屋に他のお客さん入れられなくなるから、宿代としてがっぽりあなたに請求するからね」
「それでいいよ、よろしく」
カウンターの隅でそうこうやっている間に、キャスト達がぞろぞろとお店に入ってきた。ヒマワリがミリアに目を留める。
「…ん? あれっ?……新入りさん?」
「そんなわけないじゃない。私の個人的なお客様よ。丁重にね」
「へえ~」
そういってミリアをジロジロ見るヒマワリ。と、その横で…。
「え、これは!?」
そう叫んだのは、ロベリアだった。その手には、ミリアの楕円形のバッグがあった。布のカバーは掛けられたまま。彼の表情が真っ青になっている。
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「ちょっと、ロベリアちゃん、お客様の荷物を勝手に…」
「え、何コレ~」
ロベリアを注意するナイフの話も聞かず、ヒマワリもそのバッグに手をかける。そしてカバーをたぐり上げた。
「わ、高そうなバッグ。総革で曲面で作ってあるじゃん。これはいいヤツだよ~。どこかのお嬢様?」
「あ、バッグ…か…」
ヒマワリが中を暴いたことで、ロベリアはホッとした表情をする。
「こら、2人とも、お客様の荷物だって言ってるでしょ!」
「わ、ごめん!ナイフちゃん!」
ヒマワリはそう謝ってそそくさと裏に逃げた。ロベリアは冷や汗をかき、目線を伏せたまま、その場を動かない。キョロキョロと、少し挙動不審だ。
「ロベリアちゃん…?」
「…あ、ごめん。買い出しの食材を裏に置いてくる…」
そう、沈んだ声で言って裏へと消えていくロベリアを、リカルドとナイフはじっと見ていた。
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