連載小説「オボステルラ」 【第二章】34話「襲来」(6)
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店の裏口近くでヒマワリに守られるように立っていたミリアは、奥からナイフに声をかけた。
「ナイフちゃん、ごめんなさい、勝手をしたけど、壊されたお店の賠償をさせるために、きちんと軍に追ってもらった方が良かったかしら」
「いいえ、むしろ助かったわ。まるで王女様みたいだったわよ」
そう言って笑うナイフ。そして、床にうずくまったロベリアを抱きかかえ、ソファへと座らせた。ウィッグをはぎ取られ、ドレスも破れ、殴られボロボロになっている。
「ロベリアちゃん……」
ロベリアはナイフに頭を下げた。
「ナイフちゃん…。お店を巻き込んでしまって申し訳ない。でも、私は、卵がなければダメなんです……」
「……ロベリアちゃん。さっきリカルドも言っていたけど、あなたの願いと卵は関係ないのではなくて?」
「……?」
ロベリアはぴんと来ていないようだ。リカルドは、ゴナンの首の傷に布を巻いてソファに寝かせ、ロベリアの方へと来る。
「その…。僕は卵の実物を見たことが分からないからよく分からないんだけど、卵にお願いをする際の儀式というか、作法のようなものが、あったりするんですか?」
「いや……、それは、私には分からない……」
「うーん」
リカルドは首をひねる。
「やっぱり、あなたはただ自力で自身の夢を叶えたようにしか見えないんですが…。卵を見たことはただのきっかけで、今までためにため込んできたものが溢れ出ただけのような…」
「……」
「どんな人間にだって、幸せになりたいと思い、行動する権利はあるんですから。その、故郷に奥さんと子どもを残してきたということの善し悪しは別ですけど」
「でも、卵は……」
「卵がなくなったって、今まで通りうちで働いてくれれば、その証明になるわよ」
ナイフがそう言ってウインクする。ロベリアははっとして、ナイフの顔を見つめた。
「こんなことを起こしてしまったのに……」
「たいしたことはないわよ。こういう風変わりな店だから、今までもっとひどいこともたくさんあったのよ。あなたなんかよりはるかにヤバい過去のある子だっているし。だから、心配しないで」
そのナイフの優しい口ぶりに、ロベリアは静かに涙する。
リカルドはそんな二人の様子を微笑んで見つつも、脳内では葛藤にさいなまれていた。
(まさか、こんな手の届く場所に巨大鳥の卵があったなんて…。ああ、実物を見たい、手にしてみたい。今からあの男達を追いかけて、奪うことはできないだろうか)
ようやく場が落ち着いた今、そんな蒸し返すようなことをすべきではないと分かっている。しかし…。
(もし、まだ、あの卵が願いを叶えていないものならば、僕にも…)
リカルドは店の外へ駆け出そうかと顔を向けた。
ーーそのとき…。
「きゃっ」
とミリアの叫び声が聞こえた。店の裏口の方だ。確か、ヒマワリがついてくれていたはずだが…。
と、そのヒマワリが出てきた。腕の中にミリアを抱え、先ほど、ゴナンがされていたのと同じように、ミリアの首元に武器を突きつけている。
「……ヒマワリちゃん? 何やってるの?」
「はーい、落ち着いてるところ悪いんだけど、まだ終わってないですヨ」
そう言って、武器をぐっとミリアの首に押しつけた。
「ミリア!」
ゴナンがソファから立ち上がる。リカルドは振り返り、ナイフの横で警戒した。
「ヒマワリちゃん? さっきのこれで、ふざけているとしたら冗談にはならないわよ…」
「トンデモナイ。私はいつだって本気なんだよね。もちろん、今もね」
そう言ってヒマワリは、冷たい表情でロベリアを静かに見た。
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