連載小説「オボステルラ」 【第二章】50話「リカルドの人生」(4)
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「俺に、この景色を見せてくれるために、ここに来たの?」
ゴナンはリカルドに尋ねた。それだけにしては、彼の様子がおかしかったように思えたのだ。
「……うん、まあ、それもあるんだけどね…」
リカルドは少し、緊張しているようだ。ゴナンは首を傾げる。そのまま、少し沈黙。
「リカルド?」
「……ああ、うん。やっぱり話すよ」
「?」
「ゴナンは、自分の人生をかけて僕の元に来て、一緒に旅をしようとしてくれているよね。だから、僕も、僕の人生について、話しておかないといけないことがあって」
そう言うとリカルドは、消していた発光石のライトを付けた。そして、黒の上衣を脱ぎ始める。細身ながら締まったリカルドの体、その上半身から両腕まで全体にアザが巡っているのが、露わになる。
「北の村でも一度、話したよね、このアザのこと」
「うん…。ケガややけどの跡ではないって、聞いたけど……」
このストネの街で一緒の部屋で過ごす中でも、リカルドがこのアザをあまり見せたがっていない様子は、なんとなく感づいていたゴナン。
「僕がユー村っていう辺境の村の出身だって話をしたのは、覚えている?」
「うん」
「ユーの民のおとぎ話は、聞いたことないかな? お兄さん…、アドルフさんは知ってたんだけど…」
ゴナンは少し、記憶を探ってみるが…。
「いや、聞いたこと、ないと思う」
「そっか…」
ふう、とリカルドは息をついた。
「君にとっては、多分、信じがたい話になると思うけど、ともかく、僕の話を聞いてほしい」
「? ……うん」
ゴナンの目を見て、話し始めるリカルド。
「僕は、今言った『ユーの民』っていうやつでね。これが何かというと、生まれた直後にこのアザが上半身に現れる人のことなんだ。ユーの村にだけ、たまにこのユーの民が生まれる。このアザの一部には、その人の寿命が書かれていてね」
「……寿命が、書かれている…」
「そう、何歳で死ぬかってこと。このアザの文字を読めるのは村の占い師だけで、10歳の時に本人にその寿命が知らされる。そしてユーの民はもれなく、その伝えられた歳に死ぬ」
「……」
「でね、ユーの民が死んだら、その死んだ場所にはとてつもない幸運が訪れて、周りの人が幸福になるんだ。だから、僕らユーの民は、周りから死を望まれている。早く死ね、いつ死ぬんだ、どこで死ぬんだ、近くで死んでくれ、と。僕はそういう人間なんだよ」
「……?」
そのリカルドの話の内容は、あまりにも突飛すぎて、すぐにはゴナンの頭に入ってこなかった。
「……死んだ場所に、とてつもない、幸運…?」
「うん、巨大鳥の卵の言い伝えの『願いを叶える』とかの類ではないんだけど。例えば…」
リカルドはそう言って、手元に置いてある発光石のライトを一度消す。
「もう何十年も前だけど、あるユーの民が岩山で滑落して、命を落としたんだ。もちろん、ちょうど告げられていた寿命の歳だった。誰も立ち入ったことのなかったその岩山に、何かの石を握りしめて、突如走って行ったそうだよ。そこで見つかったのが、この発光石」
そうしてまた、カチリとライトを点ける。
「発光石は副石と反応させることで、点けたり消したり、光量を調整できる上に、燃料が不要なすごい石でね。死んだユーの民が握っていたのが、その副石になるものだった。そして、その岩山には発光石がかなり大量にあった」
「……」
「これが見つかったことで、この世界の夜の景色は様変わりした。ストネの街も、ゴナンにとってはびっくりするほど明るかっただろう? 不自然な明るさだよね。でも、それで周りが幸福になった。発光石とその機械はア王国の主要な輸出産業の一つになったし、戦のやり方も変わったし、ついでにユー村もこの石で儲かった」
「……」
ゴナンは、まだ、よく理解ができていない。
「…え、……何? それ、ほんとうの話?」
「そう、信じがたいけど、ほんとうの話」
「じゃ、じゃあ…。リカルドも自分の寿命を、知ってるの? 自分が何歳で死ぬのかを」
「うん、知ってる」
「……」
ゴナンは、信じられない気持ちのまま、さらに尋ねる。
「絶対、死ぬの? その、教えられた年齢で」
「うん、絶対。必ずだね。もう百年以上にもなるユー村の歴史の中で、例外は一度たりともないそうだよ。そして大方、想像がつくとは思うけど、皆あまり長生きはしない。早く死なないと、早く幸運が巡らないからかな」
そう言って、リカルドはいつもの冷たい微笑みを浮かべる。
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