連載小説「オボステルラ」 【第二章】17話「不運の星」3
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食後、会計を済ませ、「フローラ」へ帰るべく店を出ようとしたときである。突然、スコールのような大雨が降り始めた。
「うわ、この地域でこの大雨は珍しいなあ……」
店員からマントを受け取りながら、外の様子を見遣るリカルド。ゴナンは、「この雨が北の方でも降ればいいのに……」と思いながら、ふんだんに降り注ぐ雨水を見つめていた。そして、ミリアはさらに浮かない顔になる。その様子に気付いたリカルド。
「これはなかなか貴重な景色なんだよ、ゴナン」
「この雨水を貯めておかなくていいの?」
「ああ……、この街は水道施設がしっかりしているから、大丈夫だよ。雨は街のすぐ横にある大きな湖にも貯まるし、そこから街中の水を引いているから。それ以外に、井戸の水場も多いしね、この街は」
「へえ…。なんだか、この雨がもったいなく感じるな……」
呑気にそんな話をしているが、雨はなかなか止みそうにない。こうなったら濡れて帰るしかなさそうだ。
すると、リカルドは着たばかりのマントをバっと翼のように広げた。
「よし、二人とも僕の両脇に入って。上からマントで被せてあげる。このマントなら多少は雨をしのげるから。小走りで行くから、できればベルトにつかまっていてほしいな」
「でも、リカルドは濡れちゃうよ」
「このくらい平気だよ。今日は寒くないし、僕は多少無理したって平気だから」
そう言って、はい、と両腕を広げている。ゴナンはいわれるがままに、リカルドの右腕の下に入った。リカルドは身長185cmほど。160cm弱のゴナンは少しかがめばマントの中に収まることができたが、それはそれでちょっと複雑そうな表情だ。
「さ、ミリアもおいで」
「え、ええ……」
少し戸惑いながら、ミリアも左腕の下に入る。身長145cm程度と小柄な体は、すっぽり隠れてしまう。
「よーし、スタート!」
そういって、二人の上にマントを被せたまま、小走りで店を出るリカルド。二人はリカルドの服のベルトにつかまって、一緒に走って行く。
マントのすき間からは、ザアザアの雨と、足元で跳ねるびしゃびしゃの水。そして雨に降られて右往左往する人々の姿が流れていく。でも、マントのおかげか、二人にはほとんど雨がかからない。リカルドの体温を感じて、守られているような温かい安心感に包まれたまま、大雨の水たまりを跳ねさせながら歩みを進めた。
「……ふ、ふふっ、ふふふっ」
と、リカルドの体越しに突然ゴナンが笑い始めたのを見て、ミリアは驚いた。彼が笑うのを、初めて見る。
「どうしたの?」
「…いや、わかんないんだけど、なんか、面白くて……」
「……」
マントで両脇に二人を隠しながら、大の大人が大雨の中を小走り…。そんな状況を客観的に把握して、ミリアもなんだか面白くなってきてしまった。
「ふふっ、そうね。なんだか面白いわね……。ふふふっ」
「ふふふっ、ははっ」
急に両脇で、小さな子どものように無邪気に笑いはしゃぎ始めた二人にリカルドは驚いたが(とくにゴナンの大笑いに)、リカルドも少しテンションが上がる。
「ちょっとペース上げるよ」
「任せて、体力には自信があるの。影武者だから……!」
ミリアもそう、楽しそうに答える。
生暖かい雨粒が、3人だけのささやかな冒険を包み続けていた……。
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「はあ、面白かった……」
「ただいま」
ちょっとしたアトラクション気分で、興奮気味に「フローラ」に帰ってきた3人。
と、リカルドは店の様子の異変に気付いた。
「……あれ、お客さんは?」
「お帰りなさい。……今日はどういうわけか、一組も来ないのよ…」
ナイフは暇そうに、カウンターでぐったりくつろいでしまっている。
「ああ、この大雨だから……」
「雨が降り始める前からだけどね…」
肩をすくめるナイフ。ずぶ濡れのリカルドにタオルを差し出してくれる。
「見て、あんまりにも暇だから、あの子達は宴会始めちゃったわよ……。もう、今日はいいかと思ってね。許可しちゃった」
そうナイフは楽しそうに笑うが、さっきまで笑顔だったミリアはまた、暗い表情に戻ってしまった。
「ミリア?」
リカルドはその変化に気づき、声をかけた。
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