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【小説紹介&感想】教室に並んだ背表紙(著:相沢沙呼)
書店で目に留まった一冊。
中学校の図書室を舞台に、6人の少女たちを繊細に描く連作短編集。
著者の作品は恐らく一番有名であろう『medium霊媒探偵城塚翡翠』のみ既読。
ミステリとして楽しめた作品だったので、そんな著者がまるで雰囲気の違う作品をどんなふうに描くのか興味が湧いた。
基本的には中学校の同じ図書室が舞台で登場人物も共通しており、短編ごとに視点の人物が変わっていくスタイル。
視点は中学生の少女だけど、「友情、部活、恋愛」が主軸の"The青春"の物語ではない。
ただただあの頃の狭い世界でもがく不安定な心情が丁寧に描かれていく。
これがすごくリアルで、中学生の頃を思い出して切なくなった。
高校生の繊細な心理描写といえば辻村深月先生だけど、中学生の心理描写は相沢沙呼先生かもしれない。
「友情、部活、恋愛」って青春の3要素(いま勝手に決めた)のように扱われてるけど、創作物のような熱い展開ってそうそう無いから、憧れこそすれ共感までは難しい部分がある。出来事そのものではなく、登場人物の心情に共感できるかどうかってところ。
しかしこの作品は、出来事が現実にありそうなことなので、出来事にも登場人物の心情にも共感できるという共感濃度(?)の濃い作品に仕上がっている。
いや、まぁ自分が地味な中学生活を送っていたから共感できる部分が多いだけかもしれないけど、あの頃の心理的な不安定さってのは陰陽問わずあったんじゃないかなと思う。
そんな不安定さを抱えた少女たちが図書室で"物語"と出会って変わっていく姿が描かれる。
小説や漫画、アニメや映画が好きな人はきっと共感できるはず。
そして何より将来への漠然とした不安や行き場のない孤独を抱えた中学生に是非読んで欲しい。
この本は自分の娘が中学生になるまで大切に保管しておこうと思った。
最後の「あっ!えっ!?」って仕掛けも、この温かい物語にはちょうどいい。驚きと共に嬉しさのようなジーンとした気持ちが込み上げてくる。
感想
一番心を動かされたのは3つ目の短編『やさしいわたしの綴りかた』。
特に印象的だったのが、しおり先生が読書感想文について語る一節。
不思議なんだけれど、自分の気持ちを書き出そうとすると、自分の心を整理することができるのね。書いているうちに、自分が感じていたこととか、こんがらがっていた考えが綺麗にまとまっていく。読書感想文を書くことも同じなの。自分の気持ちを整えていくと、モヤモヤの正体が見えてくる。誰かに伝えることができるようになる。その練習になるの。
小説やアニメの感想を記録しておくためにこのnoteを始めたけど、感想を言語化するって本当に頭の整理になる。noteを書くようになってからは作品を人に勧めたり感想を整理して話すのがラクにできるようになった。
感想文を書くことは感情を言語化する訓練にもなって、心を整理することができる。生きていく上で、自分の気持ちや考えを整理することはすごく大事なこと。
読書感想文ってそのためにあったのかーー!!
誰もそんなこと教えてくれなかったーー!!
っていうか、目的どころかロクに書き方も教えずに宿題にしてくる学校がクソだよな。苦手意識だけがこびりついて離れず、小論文とか鬱だったな…。
読書をしてこなかった少女が読書を通して自分の気持ちを整理することを学び、孤独を感じていたことに気づく。
そしてそれを少ない語彙を駆使して言葉にして伝える。
なんか温かい気持ちになって涙が溢れた。
全編通して温かい物語で、読書を通して少女たちが変わっていく姿は読書好きにはたまらん。しおり先生もいいキャラだし。
しおり先生が実は2つ目の短編の主人公って仕掛けがホント好き。驚かせ具合がこの優しい物語に丁度いいし、温かい気持ちになれる。
どんでん返しや仕掛けが施された物語にたくさん触れてきたけど、こういうポジティブな仕掛けはあまり出逢えない。今パッと思い出せるのは『カラスの親指(著:道尾秀介)』とか『命の後で咲いた花(著:綾崎隼)』とか。
作中に登場する地味な小説ってまさにこの作品のようなものなんだろうな。
特別な才能を持っている人間が登場する訳でもなく、友情も部活も恋愛も主軸ではない。
だからこそ共感できる部分が多い。
中学生という微妙な期間。
小学生の頃に抱いていた漠然とした将来の夢が、高校生が持つ具体的な目標へと変遷していく期間。小学生のような夢ではいけないと思いつつも、情報がなく具体的な将来を描けずに抱く不安。
しおり先生のように「大丈夫、意外と何とかなるもんだよ」とあの頃の自分に語りかけたい。
自分の場合は高校生になってから好きなものや興味のあることに出会って将来のピントがようやく合ったけど、たとえそういうものが見つからなくても、見つけたものが将来に繋がらなくても焦る必要は無い。
中学生なんてまだまだ物語の序章くらい。どんな物語かはもう少し読み進めてみないとわからない。
学生を中身の分からない本に例えたタイトルも素敵。
読書をして自分の気持ちを整理する訓練をしておくだけでも将来への備えになる。
勉強はしておいて損はない。得た知識自体は使わずにいると忘れてしまうけど、"自分なりの勉強法"を身につけておくことは好きなことを見つけた時に役に立つ。
そして社会に出れば明確な答えのない問題だらけ。明確な答えが存在する学校の勉強で考える訓練をしておくことも大事。
そう、読書感想文も訓練だったんだなぁ…。もっと真剣に取り組んでいればよかった。
娘にはしっかりと伝えてあげたい。