見出し画像

勝手に1日1推し 91日目 「憂鬱な朝」

「憂鬱な朝」(1~8)日高ショーコ     漫画

スキ♡ とてもスキ。だって最高なんだもの。

何が最高かって、時代が、です(それだけじゃありませんが)。明治~大正時代の混沌、ミクスチャー感がもう、たまらんのです!近代化の流れで、どんどん西洋のものが流れ込んでくる中で、まだまだ人々に潤いを与える続けている和の文化。街並みも、生活も、装いも、何もかも。この洋と和のカオスが最高に美しく、魅せられる。この時代の作品ってホントに魅力的!!嗚呼、こんな世界をBLで味わえるなんて、幸せです。

洋装&中折れ帽子できっちり着こなしつつ、夜着は浴衣って、色っぽ過ぎない?!胸元、はらり。今で言うところの抜け感的な(?!)、ギャップ萌え的な(?!)。そこへきて、本作はBLでございます。完璧な麗しの3ピース洋装×ふんどしの組合せ!!耽美過ぎない?!はぁ、セクシー過ぎるでしょ。桶にお湯を汲んで手ぬぐいで拭く、とか、鼻血。ハァハァハァ。まぁ、落ち着け!好きだなあ。

そう言えば、古くは「はいからさんが通る」も大好きだった。蘭丸が大好きだった!!高畠華宵の美少年画も好き!竹久夢二の美人画も好き!そういう人間だったわ、私。

父の死後、十歳にして子爵家当主の座を継いだ久世暁人(くぜあきひと)。教育係を務めるのは、怜悧な美貌の家令・桂木智之(かつらぎともゆき)だ。けれど、社交界でも一目置かれる有能な桂木は、暁人になぜか冷たい。もしや僕は、憎まれているのか──!? 桂木に惹かれる暁人は、拒絶の理由が知りたくて…!? 若き子爵と家令の恋を紡ぐ、クラシカルロマン。 Amazon

実は、正直、初めはストーリーが複雑すぎて「ん?」ってなってました。

そもそも爵位って?ってところから謎だったです。調べてみたところ、明治時代から戦前まで、日本でも爵位が存在していたんですね。明治維新前、と言うか、幕府時代は公家とか武家とのの階級が色々あったよなぁってうっすら覚えているけれど、近代化後にもちゃっかり引き継がれ、伯爵やら子爵やらっていう爵位が与えられ、華族として扱われていたんですって。全然知らなかったです、恥ずかしながら。日本にも貴族が存在してたんですね!もちろん世襲制で、本作は久世という子爵家の当主のお家騒動というイメージです。

爵位は上から公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵という順になっており、しょう爵(位を上げる)も、平民から爵位を得ることも出来たらしいです。血筋を重んじる生粋(?)の華族からは、平民上がりの華族を軽んじたりする風潮があったり、男系か女系かで当主の権利を得られなかったり、かなり封建的な価値観の基に成り立っていたようです。あ、男子でなくてはならないのは、言わずもがなですよ、ちっ。(ちなみに本作での女性の扱いには納得いかなかったし、「畜妾届け(ちくしょうとどけ)」とか、響きも含め憤りを感じたことを付け加えておきます。昔のことながら、許せん!!)

さて、本題。

久世家の年若い当主暁人と彼(久世家)に仕える桂木、この2人の関係性(最終的には恋愛関係)が主軸なんですが、彼らを取り巻く、久世家に忠誠を誓う者、その時代錯誤感に嫌悪感を抱く者や久世家と関わる伯爵家の者・・・などなど数多い登場人物たちそれぞれの思惑が絡み合い過ぎちゃっておりまして、ものすんごく難しくて厄介なんです。

成人前の暁人の爵位がらみの駆け引きが、とにかくエグイ!土地や株の売買、投資、事業拡大、政略結婚などなど打ち上げ花火級のドでかい陰謀がその大きさからは考えられないほどひっそりと当人の知ることのない水面下でドンドン打ちあがっている状況なんです。腹黒!おぉ、怖っ。

で、久世家を守るために桂木が奔走する訳ですが、その奔走が暁人の桂木へ恋慕によって狂わされていくところが見どころとなっております。展開が進んで後半やっと前半の事象が紐解かれてゆくのですが、正に

今はわからなくても いつかわかってくれる

と語る桂木の言葉が、暁人と同様、読者も分かり始めるんですよ。キャー、桂木、かっこいい!!わかったよ、私!私の味方もあなただけよ、桂木!私も守って、桂木!ハァハァハァ。まぁ、落ち着け、第二弾!

って、この人こそ、最大の肝。暁人のみならず老若男女を虜にしてやまない家令の桂木。この桂木の出自が更に物語を複雑にしているんだよなあ。ほんとに悩ましいことに。眉目秀麗且つ、聡明で思慮深い桂木。誰でも惚れちゃうよ。坊ちゃん坊ちゃんしている暁人様には刺激が強すぎますわ。とは言え、暁人様から漂う育ちの良さ、ノーブルさも負けていないんだよねー。気丈に振る舞う中で見え隠れする年相応の幼さにキュンです。つまり、ベストカップルということだな、うん、そうだな。

何もかもが正反対なんだよね。そこがポイント。複雑な出自から形成されたであろう合理化した性格、常に裏を読み先を読み、筋道をたてながら生きてきた計算高い桂木は、まっすぐで純粋な暁人からの直球の愛に戸惑っちゃうの。自分の思い通りにいかないなんて初めてで、暁人に惹かれずにはいられないんだよね。桂木の心と頭と行動がままならず、衝動に突き動かされる様がとても人間臭く、痺れました!

言ってることとやってることがバラバラ 矛盾の塊

なところが、お互い本気だなあって感じます。

この2人の関係性の発展は「変わること」にあると思います。時代の流れも人の心もちょっとしたことで変化します。暁人の自由で新しい考えに人々は魅了され、失敗や間違い、変化を恐れず進むことは、局面を打開する力になります。今も昔も同じで、変化の先に新しい未来が開けるのですね!桂木もそんな暁人を見て、徐々に自身の心の変化を受け入れ、一歩踏み出す勇気、変わる勇気を得、行動します。この変化こそが2人を結びつけることになります。

家柄と桂木しか見ていなかった暁人が、桂木の教えに倣い、なぜ桂木が久世家を、そして暁人を守るのかに理解したところからの急成長にはグッとくるものがあります。雇用を守るために久世家を絶対になくしてはならないと大奮闘。家名も会社と同じで、当主は社長、家令や召使など家に関わる全ての人たちは、社員なんですよね。守らなければならないものを知り、学び、考え、やっと桂木の本心と自分の進む道を見つけ、暁人自身の判断により行動します。超いい当主じゃん、先見の明もあるし。

紆余曲折あって、最終的に桂木も紡績会社の社長に就任。その会社の買い取りも工場の工員を守るために起こした行動だった訳でして、最後の最後に、序盤から暁人が願っていた、桂木と

肩を並べて歩けるような もっと深くお互い理解しあえるような そんな風になりたかった

という思いを名実ともに実現できたという帰結に、胸がいっぱいになりました!暁人様、やっと桂木と隣り合って歩けるね・・・涙。(注:家令は当主の後ろを歩かなければなりません)。「憂鬱な朝」というタイトルも見事に回収しており、10年という歳月を経て、完璧なまでの完結に導いて下さった日高ショーコ先生には感謝しかありません。ありがとうございました!!

話は変わって、本作中で見るお屋敷はとても豪華で、調度品は最高級、夜会やら何やら、サロン的なものを開催していたりして、まーさーにー、ヨーロッパって感じです!!「風と木の詩」日本版じゃん!と思っちゃいました。歴史的事実としては、この豪華絢爛な華族制度はGHQが撤廃したそうです。そう言えば、豪華な邸宅とか取り上げられて、オフィスとかにされてたよね。それは、良く知るところだったです、ハイ!

はぁ、全てを読み終え結末を見届け、更に、全てを踏えた上での再読。これ、絶対です!理解が深まり、細かい部分まで読み込めます。というより、何度だって読みたい!ってだけで、再読に次ぐ再読、是れ必至也、です。ほんと、マジ、最高のクラシカルロマンじゃー。これだからBLはやめられぬ。

ということで、推します。

いいなと思ったら応援しよう!

この記事が参加している募集