「DNAは遺伝子の本体」って言われてもわかんないよ
変わっているような狙っているようなタイトルをつけてみました。
遺伝子とDNAの違いについて、個人的に理解したことをもとに説明してみようと思います。
どんな記事が需要あるのかなぁと思う中で、こういうお役立ち系で書けるとしたらこれかなぁと思った次第です。
だいぶ節操なく書いているのでアカウント分けろよという声が聞こえてきそうな気がしますが、もうちょっとたまったらマガジンで分類しようと思いますのでご辛抱ください。
「DNAは遺伝子の本体です」って高校生物の教科書に書いてあって、いやそれどういうこと?説明になってなくない?と思った記憶があります。
わかりにくいと言われていて、ググればいろんな解説記事がでているけれど、いまだに教科書の説明それでいいの?よっぽどわかっているひとじゃないとわからない言い回しじゃない?と思うわけです。
というわけで、違いそのものの説明というより、なぜそうなってしまったかの背景解説が長くなってしまうのですが、ご興味があるかたはお付き合いください。
時間がなくて違いだけを知りたいという場合は目次で違いについてのところまで飛んでいただいても大丈夫ですが、その場合は検索して他のサイトの解説も3,4個見てみてくださいね。
はじめに
義務教育かせいぜい高校までで習う単語なのに、よく使われるし自分でも使うけどはっきりと意味を問われるとわからないものってありますよね。
あいまいな認識をしていたものの解像度が上がった瞬間ってものすごいアドレナリンが出ていると思うんですよ。
比喩じゃなくそれまでと世界が変わる感じがする。世界っていうのは自分にとっては自分の認識しているものとイコールだから。
そもそも遺伝子の「子」とは
遺伝っていう単語のイメージから、親から子に、の「子(こ)」の印象がついてまわったりしがちかなぁとも思うのですが、
遺伝子の「子」は、「そのようなもの」という意味の「子(し)」です。
他には配偶子(配偶するもの)とか補因子(補う働きをするもの)とか、どうやら生物学用語によく使われているようです。
おそらく、学術本を翻訳するときに、日本語に存在しなかった単語に対して、こういうはたらきをするもの、っていう意味で作られた用語なんでしょう。
つまり、「遺伝子」の単語の本来の意味は、「遺伝するもの」「親から子に伝わるなんらかのもの」ということです。
現在は科学の進歩によりいろいろなことが解明されていますが、その結果これまでの発見の積み重ねの過程が見えづらく、また途中途中で作られた単語がすべて存在していたりしてわかりづらくなってしまっているものがあります。
つまり、「遺伝子」という言葉が作られた当時は、
①なぜかはわからないけれど、蛙の子は蛙であって、鳶が鷹を生むことはないらしい(文字通りの意味です)
②それは、どんなものかはわからないけれど、なにかが親の特徴を子どもに伝えているからだと考えられる
③特徴が親から子に代々伝わっていくことを『遺伝』と呼ぼう
④親の特徴を子に伝えるなんらかのものがあるとして、それを『遺伝するもの=遺伝子』と呼ぼう
というような流れであったと考えられます。
遺伝子って書きすぎて道産子みたいに見えてきた。ゲシュタルト崩壊。
じゃあ、DNAは?の前に、この世界の話
次に、DNAの説明に入ります。
DNAはデオキシリボ核酸の略であるということは高校生物を取ったかたであれば暗記させられたなぁという記憶があるかもしれません。
デオキシリボ核酸ってなんぞや。
呪文のように覚えるものだと思い込んで(思い込まされて?)いると「そういう名前」でしかありませんが、化合物の名前にはルールがあるので、そのルールに沿っている名前の付け方であれば、初めて聞いたものでも、だいたいどんな形をしていてどんな特徴がありそうか、推測することができます。
ちなみに、化合物の名前の付け方のルールができる前に、一般的な名前がついていたものはこのルールでは推測できません。
先ほどの「積み重ねの過程」の話と同じく、科学がその時その時できちんとひとつずつ時を刻んできた証です。これが感覚的に納得できると、だいぶ世界が変わります。
だから、この世界はすべて綺麗に説明できないし、すべて綺麗に統一された名前も分類もついていない。
もし誰かが世界を作ったのだとしたら、あるいはこの状態で世界が始まっているのだとしたら、もっと綺麗に整頓してすべての整合性を取ると思うんですよね。
すべてをわかっている人がいれば、分類の枠組みをどう作ればいいか、どういうルールを作れば抜け漏れダブりなく並べられるのか、それくらいはお膳立てされていいと思うんです。
でも、この世界は、どういった枠組みを作れば「正解」なのかわからないまま、それぞれの時代の人が、その時点で正しいと思われることを発表し、積み重ねていく作業を繰り返してきたんです。
事例紹介
とうとうと語ってしまいましたが、これを聞いてちょっと思い出したことがあるんじゃないですか?
おそらく小学校か中学校で習う、電池の単元。
電流はプラスからマイナスに流れるけど、本当の電子はマイナスからプラスに移動していますっていうやつ。
は?って思いませんでしたか?
これはもう単純に、電池が発見されるのが電子が発見されるよりも前だった、決めた方向と逆だった、っていうだけなので、子供心にもそれは理解できて、じゃあ間違いでした直しますってすればよかったのにと思っていました。
物理は詳しくないので確かなことは言えませんが、おそらくそんな突然「今日からプラスとマイナスは逆です」というわけにはいかなかったでしょうね。
どれが旧式のプラスマイナスで書いてあるか、どれが新しいプラスマイナスで表示しているのか、わかりようがないですから。
単純に機械につなぐ方向を間違えたら危ないでしょうし、過去の論文もどっちのつもりで書いていたか勘違いしてしまったらまったく意味が違ってきてしまうでしょう。
あるいはそういった経験を踏まえてか、慎重に名前を付けたら逆に杞憂だったということもありますね。
電子殻の一番内側がK殻と名付けられているのがそれです。
その当時の技術の限界でこれが一番内側に見えるけれども、それをA殻と名付けてしまったら、後世でもしもっと内側の殻が見つかった時に困るだろう、ということで、いい感じに前にも後ろにも伸ばせるように11番目であるKの名をつけたにもかかわらず、実はそれが本当に一番内側であったので、せっかくの気遣いが無駄になってしまいました。
えー、いっこうにDNAの説明に入りませんね。
どんどん参考情報を付けたしたくなって話が脱線しまくり、授業が進まない先生の気持ちがよくわかります。
名前の付け方のルールの役割
一つ戻って、名前の付け方にはルールがあるけれども、ルールの前についていた名前はルールに従っていない、という考えてみれば当たり前のことにも補足したいと思います。
例えばですが、水っていうのも正しい化合物の名前です。純粋にH2Oだけで構成されている化合物を指す場合のみですが。水道水とかはいろんなものが混ざっているのであれは混合物です。あと、慣用的に液体のことを水って呼ぶ場合はそもそもH2Oではなかったりします。
でも、もし水を知らない人が(いないでしょうけど)いたら、どんなものかは推測することができないわけです。
しかし、ルールに従ってこの「水=H2O」の名前を呼ぶとしたら、一酸化二水素となります。
急にザ・化学物質みたいな印象になりました。たまにニセ科学のパロディで使われるやつですね。
一酸化二水素と呼べば、確実にH2Oという構造式を書くことができます。
それだけで性質が推測できるかといわれるとすみません、詳しくないのですが。
でも、例えばエタノール、メタノール、みたいに-olがつくものはアルコール、メタンとメタノールは炭素(C)の数が同じで、エタンとエタノールの関係と同じ、みたいな仲間分けが、名前だけでわかるんです。ルールに従っていると。
というか正直なところ、水!酸素!二酸化炭素!くらいの時はよかったとしても、ありとあらゆる組み合わせで大量に化合物があるとわかってしまったら、一個ずつに固有の名前をつけるほうが難しかったんじゃないでしょうか。
覚えたり推測したりするのが容易になって嬉しい限りですが。
その代わり、ルールにしたがった名前と、前から持っていた名前(慣用名といいます)の2つがある化合物ができちゃったんですけどね。
エチレンガス、で耳にしたことのあるエチレンは、さっき出てきたエタンの仲間ですが、ルール通りの名前だとエテンです。しっくりこない。
それで、DNAってなに?
さてお待ちかね(?)、デオキシリボ核酸の解読に入っていきたいと思います。飛ばしてきたかたのために、おさらいすると、DNAはデオキシリボ核酸の略だよという話を先ほどちらっと「じゃあ、DNAってなに?の前に…」の項でしました。
最初の「デ」は、否定というか、一つ少ない、取った、みたいな意味の接頭辞です。
次の「オキシ」、これは酸素を指します。つまり、「デオキシ」までで、「酸素が一個少ない」の意味です。
「リボ」は「リボース」の略で、糖の仲間です。図に表すと、5角形に近い形をしています。ここまでで、「デオキシリボース」がくっつきました。「酸素が一つ少ないリボース」のことですね。
最後の「核酸」はちょっと難しいのですが、リボース、リン、塩基が組み合わさって決まった順番でずーーーっと長く連なったもののことを指します。
つまり、DNAというのは、「酸素が一個少ないリボースと、リンと、塩基でできた長ーーーーいやつ」ということになります。
ちなみに、「ただのリボース」も核酸になります。「リボ核酸」です。
これは何かというと、「デオキシ」の頭文字のDがなくなり、「リボ」から始まるので、「RNA」です。
ここでああ!ってつながってくれると非常に嬉しいのですが、どうでしょうか。
DNAとRNAの違いって何?というのも、よくある疑問のひとつかなぁと思いますが、まず名前の違いの由来は、核酸を作る3つの要素のうちのリボースの部分が、デオキシリボースなのかただのリボースなのか。つまり、酸素が一個少ないのか多いのか。という違いになります。
他にも、くっつく塩基の種類が違ったり、二重らせん構造を取らなかったりします。
ここまで長々と解読をしてきましたが、つまりDNAというのは、ただの化合物の名前です。「二酸化炭素」とか「塩化ナトリウム」と同じなわけです。
「塩化ナトリウム」も、「塩」より圧倒的に構成がわかるようになっていますね。
遺伝子とDNAの違い
ここまできて、遺伝子とDNA、そもそも比べるものではなかった、という感じではないですか?
おさらいしましょう。
遺伝子は、「なになのかはよくわからないけど遺伝をするなんらかのもの」という概念を表した言葉で、
DNAは、「酸素が一個少ないリボースとリンと核酸がつながった長い物質」というものの名前です。
そうです。全然違うんです。でも紛らわしいんです。
DNAには、遺伝するという意味はまったくありません。
たまたま地球上の生命体の大半が、核酸を使って親から子に特徴を伝えている、もっというと、自分の設計図をすべて核酸に記録してある、というだけなんです。
それに使われている物質の名前。それがDNAです。
遺伝子はもっと前から、こういうものがあるんだろうなぁと思って概念的に作られた名前です。
それが本当は、厳密にはどんな物質が伝えているんだろう?というのを研究していた時代の人は、細胞の中の核の中にはタンパク質かDNAしかないから、このどちらかが「遺伝子の正体」だろうと考えて、こっちが正しいというのを証明するために頑張っていたわけです。
その時代に生まれていれば、「遺伝子の本体」はDNAでした!!というニュースが流れたとして、その言い回しに違和感を覚えることはなかったでしょう。
だって、そういうものはあるんだろうけど実際には何なんだろうなぁって思っていたところに、この物質です!という答えが出たんですから。
これが、「遺伝子の本体はDNAである」の意味です。
ここまで知ってみると、すとんと落ちる文章じゃないですか?
実はそれだけじゃない「遺伝子」
由来はわかった、でも、遺伝子っていう言葉が使われるのってそれだけじゃなくない?と思ったかた。鋭いですね。
そうです、遺伝子という言葉が生まれた時はそういう意味で作られたはずですが、我々の生きる現代では、さらに科学は進歩しています。DNAが本体だとわかっても、もっと厳密にはどうやって遺伝しているのか?というのが研究され続けてきています。そのため、言葉の使われ方も、科学の進歩とともに変わったり、増えたりするんです。
現在では、遺伝子という言葉は、設計図全体のうち、あるひとかたまりを指すことが多いのではないかと思います。
その特徴(形質、あるいは経路だったり)には、何個の遺伝子が関わっているのですか?というような使われ方をします。
DNAの長ーーーいATGCの並びの中には、特に意味がないところもあるんです。なぜかというと、誰かが生き物の設計図を作ろうという意思を持って書いたのではないから。偶然増えたりしても、それが生き物の命や生活に特に影響がなければ、そのまま子供に伝わってしまい、でも特に影響がないからそのまま残っていたりするんです。
ATGCの並びで、ひとつのタンパク質を指定していたり、それを作るかどうかを決めるはたらきをしていたり、特に意味がない空白の場所があったり、壊れにくいための仕組みを作っていたり、ダブってしまった予備だったり、いろんな場所があります。
その中で、例えばここからここまではひとつのタンパク質を指定しているから、途中で切ったら意味がなくなってしまうひとかたまりだな、という部分を、数えられるほうの「遺伝子」と呼んでいます。
この遺伝子にはひとつずつ発見され次第名前が付けられますが、これもまた名前付けの難しさに翻弄されることになります。
初めて発見した時に、発見した人が特徴を考えて名前を付けるわけですが、たまたまこの場所から発見されて、こういうはたらきをしている、とわかってそれにちなんだ名前をつけてわかりやすくしたぞ、と思っていても、実は他の生き物では全然違う役割をしていました、というのが後からわかることはよくあります。しかもどんどん調べてみると、最初の使われ方が例外で、ほかの生き物ではみーんな別の役割をしているのに、例外の名前で登録してしまっているからいまさら変えられなくてちょっとおもしろいことになっている、みたいなものもあります。
実際には、ひとつの遺伝子だけで目に見える特徴が変わるものはすくなく、いろいろな遺伝子が複雑にかかわりあって生き物を作っているのですが、わかりやすいのでひとつの遺伝子で特徴が決まるものが教科書に載っています。
そう、メンデルの法則です。
まるい豆としわのある豆、黄緑のさやと緑のさや、とか、あれはものすごくはっきりした一遺伝子による制御の例なんです。わかりやすいから、あれで遺伝のことわかったぞ!と思ってしまうんですが、現実はもっと複雑なんだよなぁという。
逆に言うと、すごくわかりやすい遺伝の仕方をするから、観察から発見できたんですよね。メンデルの主張は生前全く認められませんでしたが、メンデルの死後、3人がべつべつの場所で同時に再発見したくらいですから。
だから、「メンデル遺伝する」という表現があります。メンデルの法則にしたがう、スタンダードな遺伝のしかたをするタイプだから、メンデル的に考えて大丈夫なやつだよ、ということです。
タンパク質 vs DNA
ちなみに、遺伝子の本体はタンパク質だと思う派が圧倒的優勢だったんですよ。なぜなら、タンパク質のほうが複雑な暗号が作れるから。
塩基に種類があるってさっきちらっと言ったんですが、核酸を構成する要素のうち、塩基は基本的に4種類あります。A,T,G,Cというあれですね。
これがRNAだとA,U,G,Cになるっていうのが違いその2なんですが、それはおいておいて。
タンパク質っていうものも、アミノ酸がたくさん連なってできている長ーいものであるという意味では、ちょっと核酸に似ています。
どちらも、長いままだと不便なのできれいに折りたたまれますが。
一列にしてみると、長ーくなっていて、ひとつひとつがばらばらになるパーツの種類が決まっていて、その並び方でなにかが決まるという意味ではかなり似ています。
アミノ酸は塩基より種類が多くて、人間の体に使われているものだけでも20種類あります。
タンパク質はもちろん生き物の体をつくっているそのものといってもいいものですから、4種類の塩基では20種類のアミノ酸を記録することができないじゃないか、というのがタンパク質派の主張でした。
DNAは、実際には塩基3つでひとつのアミノ酸を指定しています。4種類の塩基が3つ並ぶときの順列は、4×4×4で64通りですね。20種類のアミノ酸を指定してあまりある数です。4×4の16通りだと若干足りない。
足りないからというか、3つで指定するから20種類のアミノ酸を使えたという順番の方が時系列的に正しそうな気がします。
どうやってタンパク質ではなくてDNAが遺伝子の本体だってわかったか、もし機会があればまた今度書こうと思います。好きなので。
あとがき
ずいぶんと長くなりました。
自分の知っていることを、それも知った時にわくわくしたものを、人に話すのがめちゃくちゃ好きなんですよね。
リアルでもこの調子でしゃべり続けるマシンガントークタイプです。マシンガンってほど早くはないかも。乗ってくると止まらない感じなので、
こんな話を同僚とかにしても迷惑なだけですので、すこしでも興味があって役に立つ人に届けばいいなぁと思います。
最後に言い訳みたいで申し訳ないですが、これ一切出典を明記していないのはよくないなぁと思いつつ、ほぼ記憶だけで書いております。
いつこれを自分が理解したのかもはっきり覚えていないのですが…
できるだけ正しい表現を心掛けていますが、わかりやすさとの兼ね合いであまり学術的ではない表現も多いです。
そのうち修正を入れるかもしれませんが、本日はここで。
非常に長い記事でしたが、お付き合いいただきありがとうございました。
この時間(夜中の3時です)に発信するのもあれなので、初の試みですが翌朝まで寝かせてみようと思います。
(5月21日:推敲なし、2時間くらい?、5600字)
(公開前追記:プラス2時間、7600字)