【読書ノート】横田耕一(2014)『自民党改憲草案を読む』_#02
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2 「自主憲法」と「押しつけ憲法」
自民党の党是
自民党は結党以来「自主憲法制定」を党是としてきた。
日本国憲法は、日本が主権を奪われた状況の中で占領軍によって「押しつけられた憲法」であるから。
それを理由に現憲法は無効で、大日本帝国憲法に復帰すべきだとの論も一時期はあった。
自民党は現憲法の有効性を一応認めた上で「自主憲法」を作るべきだとの立場。
誰が誰に押しつけたのか
現憲法が「押しつけ憲法」であるなら、当然「誰が」「誰に」押しつけたのかが明確にされなければならない。
「誰が」については、GHQが草案を作成したことから、マッカーサーやGHQが挙げられることが多い。
しかし、実際には極東委員会の議を経ており、ソ連を含む連合国であったと見るべきである。
「誰に」対してかは、当時の日本政府であったことは、経過過程から明らかである。
すなわち、「連合国が」「当時の日本政府に」押しつけたのが「日本国憲法」であるといえる。
では国民はどうであったか。
GHQ案に難色を示す日本政府に対し、GHQはその案を(帝国議会を通さず?)直接国民に示せば、国民はきっと受け入れるだろうと脅した。
実際、当時の世論調査は、国民の大多数が(政府が受諾を渋った最大の理由である)国民主権下での象徴天皇制を支持していることを明らかにしていた。
したがって、国民には「与えられた」との意識はあっても、「押しつけられた」との意識はあまりなかったといえそうである。
もっとも、これはこれで後述するように弊害を生むことにもなった。
「自主憲法」でなかったのは確か
しかし、日本国憲法が(国民の支持を得ていたとはいえ)本当の意味での国民による「自主憲法」でなかったことも認めなければならない。
国民が憲法案作成に関与することはなかったし、
制定過程に直接参加することもなかった。
原案作成過程はともかく(GHQ統治下だったから?)、
原案が作成された後に、広範に議論し、
国民の代表によって構成される「憲法制定会議」を開き、
そこで決定された最終案につき国民投票が行われるべきであった。
残念ながら、連合国は後に日本国民から「押しつけ」と非難されないように、大日本帝国憲法との法的連続性を日本政府に要求した。
この結果、日本国憲法は、(形式的には)新憲法の制定ではなく、天皇による旧憲法の改正として行われてしまい、国民の直接参加がなされなかった。
制憲者についても、「前文」では国民、「上喩」では天皇という齟齬が生じてしまった。
必要だった血肉化の努力
日本国憲法の内容をいくら国民が歓迎したとしても、国民の積極的関与を欠き、いわば「与えられた憲法」であったことは、その後の運用に望ましくない影響をもたらしている。
一般的に、「与えられたもの」は「努力して得られたもの」ほどのありがたみがなく、なおざりにされがちである。
憲法も同様で、その理念は憲法を勝ち取るための闘争や努力の中で血となり肉となるのである。
たとえば、人は平等に取り扱われるべきだとの確信があってこそ、憲法にその旨が書き込まれるのであって、逆ではない。
しかし、ともすれば、「憲法に××と規定されているから、××であるべきだ」という言辞が横行することになった。
憲法の理念が、制定時には国民の血肉でなかったとするなら、なおさらその後の運用などを通して血肉化・本音化に努力すべきであった。
「憲法は誰が遵守すべきですか」との問に「もちろん国民です」という答が今日でも圧倒的である事実は、理念の血肉化がなされていないことの証拠である。
制憲直後の教科書や啓発書も今日から見れば問題が多い。
中学校の教科書であった『あたらしい憲法のはなし』など
これらの復刻本が護憲派にさえ歓迎されている事実は、この人たちにも憲法の理念が理解されていないことを示しており、暗然とする。
■次回■
3 「立憲主義憲法」を壊す
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■前回■
1 「民意の反映」を理由とする改憲手続の緩和は妥当か
https://note.com/nanami_neco/n/n6b6b91fea28c
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