洗濯くん その1 彼女が選んでくれたプレゼント
非効率な観覧車。
洗濯くんは笑っていう。
「この卵焼きには卵は使われていませんね?」
そう言うと店員は後退りし、そろりそろりと厨房に退散していった。
それをみて、この店員がどれくらいこの店で働いているのかが推量される。
あの店員はアルバイトではない。(女性はこの店の創業者である父親の娘だ。)肉体に染み込むまでに培われたこの店での所作が健気にも店側の失態をひとつ補っていた。
しかしそれならば一層どうしてこのような自体に陥ったのか、それを紐解くにはもう少し時間を遡らせる必要がありそうだ。
永遠に味がする飴を舐めている。
洗濯くんは背が高い。
いつも何かにぶつかってしまう。
避けようと思っても気がつくのが遅い。
ぶつけたところは3日間あざになって残る。
たくさんぶつけるのであざが頭部で混み合っている。
そんなことだから洗濯くんはいつも物憂げである。
そんな彼にガールフレンドはヘルメットをプレゼントした。
散々なんにしようか悩んでいた誕生日プレゼントに、ヘルメットをプレゼントした。
苦い木の皮の味がする。
彼女がホームセンターの戸棚で見つけた眩しいピンクのヘルメットを、洗濯くんはおしゃれにそれを着こなして(被りこなして)くれる。そんな自信があった。
おしゃれ、そして実用的である。
蓄積された頭のあざの行列を次第に解消していく手段を得て、彼女はピンク色のヘルメットが入っている箱を抱えながら、嬉しそうに洗濯くんの家に向かった。
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