【短編小説】赤フレームのショートショート
自分の文体ってなんだろう。
そんな1文から書き始めてしまうと「私っぽいな」と思う。
とにかく1行目で惹きつけられるように。
「問いかける」
「名文をそれっぽく書き換える」
「非現実的な場面から書く」
こんな技術が先立ってしまう。面白い文章になっているのかは、置いておいて。
「おとなの寺子屋 作文教室」テーマは「文体」だった。
お題のシチュエーションはひとつだけ。
「メガネをなくしたと思ったら頭にあった話」
これを120〜150字で課題ごとに書く。
課題① 1文10文字以内の短文で書こう(NG:体言止めを多用しない)
ない。そんな文章書いたことない。「そんな文章書いたことない」ですら13文字もある。
なのに、周りはどんどん提出していく。Zoomのコメント欄に大喜利形式で小作品が上がる。しかも上手い。これはもう「IPPONグランプリ」の決勝戦ではないかと。
もうだめだ。細かい状況まで考える時間なんてない。とにかくメガネを探す。見つけるだけ。枕元。お布団の中。それくらいなら探したことある。
催促されながら、なんとか送ったのに、五百田さんからは「余韻が素敵です。が、長いです、一文が。せっかくなのでもっと!」と。。。
課題② 字数制限いっぱいまで1文で書こう(ウザく、ぐだぐだと)
これなら書けそうだけど、ひと言で書き切るとだらだらと長い説明になるから、それに耐えられるような内容を、なんて今から考えるには時間的に無理だし、全然浮かんでこないし、とにかくメガネのバックヤードを、思い入れを詰め込もう。と書いてもまだ108字。どうしてこんなに極端なんだろう。そして、極端過ぎてむずかしい。。。
ここまでで、すごく疲れていた。いつもは言葉の種を丁寧に手摘みで収穫するように書いていた作業を、コンバインでバリバリと刈り取って、味見をすることなくそのまま提供してしまうくらい、全く違う作業だった。
課題③ カギカッコを駆使して書こう
課題④ 結論から書いてみよう
残りの課題も、制限時間に翻弄されながら過ぎていった。
終わったあと、疲労のあまり手は震え、まばたきをしていなかったのか、目が乾き生理的な涙が流れた。フィールドバックで感想を求められたときも「疲れた」としか言えず、正直、周りの人が何を話したか覚えていない。
そこまで頭を振り絞ったのに、結果的に4つの小品集ができるどころか、4つ全てをつなげても、ひとつのショートショートといえるくらい、新しい文体に対する挑戦もへったくれもない作品ができてしまった。
そもそも「メガネをなくしたと思ったら頭にあった話」なんて、フィクションで聞くけど、体験したことがないからシチュエーションが浮かばない。だいたいメガネなんて重力があるから気づくでしょ、頭にあれば。
せいぜい起きてから5分程度で完結するよね。だからありふれた内容になっちゃうよね。
そう思い込んでいた私の世界は、ひとりの参加者によって完全に壊れた。
「鯖江のメガネ」
彼の課題は、全てそのメガネについて書かれていた。とにかく軽くて、装着感が良すぎるらしい。
メガネが見つからないまま外出した彼はテニス、ランニングをして帰ってきて、妻に指摘されて初めて額にあったことに気づく。「メガネって重たい感じがして着けたくないんだよね」と思っているあなたへ。「鯖江」のメガネおすすめですと、締めていた。
鯖江のメガネを武器に、文体まで見事に書き分けていた。
あまりにも私の心を見透かされていて、どきっとした。
外出しても気づかない軽いメガネの存在を、信じてしまった。
「メガネに気づかないわけない」そんな先入観や思い込みに縛られていた私は、鯖江のメガネをかければ、少しは軽くなるのだろうか。
確固たる自分の文体に気づくとともに、自分の世界観の狭さを痛感した。
そんなこんなでGOTOキャンペーンで行きたい場所NO.1は福井県鯖江市になった。何がなんでもメガネを頭に乗せてみないと気が済まない。
※「鯖江メガネの君」に完敗した私の作品ではあるものの、上記の条件をつなぎ合わせた作品を読みたい人のために、公開しておきます。字数制限を意識してメガネは漢字にしました。読みやすいよう、若干の修正は加えています。
【短編小説】赤フレームのショートショート
起きたとき、世界がぼやけていた。
スマホをいじりながら寝オチをしたはず。 眼鏡は顔の一部だったはず。
なのに、見つからない。 枕もとを探したのに見つからない。 そっと毛布をふってみた。
けど見つからない。
ふと、耳の違和感に気づく。
「あっ」
これはおとうさんが私の誕生日のときにプレゼントとしてくれて朝も昼も夜もかけていて、おかあさんに「寝るときくらい外しなさい」と言われても外さなかった、丈夫で可愛くて私にフィットしてくれた眼鏡がないと思ったら、あったんだよね、頭の上に。
ただ、その時は焦りすぎて、こんなことを思っていた。
みんなから「よく似合う」と言われていた眼鏡がない。
「嘘でしょ」思わず独り言が漏れる。
「赤フレームの眼鏡が似合う人が好き」と言ってた彼に合わせる顔がない。
「眼鏡なしの私ってどう?」って聞いてみようか、いや「眼鏡がないキミは嫌い」って言われたら……。
姿見に映った自分の頭にガラスが光る。
「うっわ、まじかよ」本当にそう思った。
結論を言うと、「寝るときに眼鏡を外した方がいい」というのは本当だ。
まず、起きた瞬間のギャップが凄い。 寝る前にははっきり見えていた世界が、目が覚めた瞬間、急にぼやけている。
「ずり落ちたのかもしれない」と枕元を探して見つからないと、焦りまで生まれる。
「頭の上にあった」と見つけたとして、それ、小さくヒビが入っていない?
【完】
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