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宮下奈都さん小説「つぼみ」装画のプロセス 後編

先日書いたこちらの記事の続きです。

宮下奈都さん小説「つぼみ」の装画を描いたときの話…

短編集なのですが、この中のメインとなっている一つの物語に焦点を当てて装画を考えました。

ヒロインである「紗英」という女の子の光と影なるもの…を描き出したい。

【悩みつつもしなやかに歩み始める女性像】

3人姉妹の末っ子である紗英はいつも「お豆さん」として扱われ、誰からも愛される存在。習い事の生け花では、「自分の花」(の表現の仕方)について壁にぶつかりつつも自分なりに賢明に模索します。
そんな時に出会った一人の男の子。

彼女は同級生の朝倉くんと生け花教室で出会い、彼の作品に心奪われます。
お花で食べていくわけにいかないという朝倉くんに紗英が言った言葉が印象的で好きなシーン↓↓

「なんでお花で食べようなんて考えるの」
「食べなくて、いいのか」
「いいのよ」
「いいのか」
「いいの」
うーん、と朝倉くんは唸った。気持ちよければそれでいいのか。
いいに決まってる。
「朝倉くん、お花を活けてる間はずっと気持ちがいいんだよね」
「うん」
「それってすごいことなんだよ。朝倉くんには才能があるんだよ、お花の才能って
いうより、熱中できる才能。しあわせになれる才能だよ」

…そんなやりとりや、彼女がやがて導き出す答えにとても励まされます。

【装画全体の色イメージを検討】

色を決めるとき、この「つぼみ」に関しては
かなり迷いました。

あまり暗すぎるのも違うし、明るすぎるのもなんか違う。

言葉にするのは大変難しいので割愛しますが(言葉に変換しようとすると感じているものとズレる気がします。)直感でこの「つぼみ」にしっくりくる
色を検討するために何種類か出していきます↓↓

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↑こちらよりももう少し案出しをしました。
これは自分の内側で整理するためのもので、先方には提出はしません。

以前は、色に関するアイデア出しをデジタルでは行ってこなかったため
思いついたものをとりあえず絵の具で描いてみる、という描き方だったのでかなり時間がかかっていました。
デジタルだと、かなりのバリエーションを比較、検討できるのでとても便利です。
その反面、色々出来過ぎてしまうため余計に迷ってしまう…という面もあるのですが…

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「紗英」という女の子の、これから花開いていくイメージの白、そして
若い彼女が捉える瑞々しい世界の広がり…として爽やかすぎない深みのあるブルーが良いかと思い、案を詰めていきます。

【実際にアクリル絵の具で描いてみる】

決定した色のイメージをもとに、アクリル絵の具で描いていきます。

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描いているうちに、ラフとは違うインスピレーションがやってくることも多く、それに従い描いていきます。(大幅に変更することはありませんが)

背景のブルーの反対色を少し髪の毛に入れることで、全体のバランスをとります。
装いを白にすることで、画面が重くならないように。
衣服の少し光を帯びているような色とつぼみをイメージさせる植物の色が、少女の手に持つ紫色の花と小さく響き合うように。

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↑ポニーテールもかわいいかも、と思って描きましたが少々イメージとズレていたので没に。

デジタルで色のイメージをあらかじめ細かくシミュレーションしておくことはアナログ制作において、大幅な時間短縮につながります。
ならば、いっそうデジタル制作オンリーで良いのでは…?
という風にも思いますが、現時点ではアナログでしか出せないタッチがあるような気がしており(幻想かもしれませんが)まだそれには至っておりません。

色々な制作方法を模索しつづけ、表現の幅も広げていきたいと思う昨今です。

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デザインするプロセスでは、タイトルをピンクにするか迷ったそう。
最終的にはオレンジになり、よりイラストが引き立つ仕上がりにしていただきました…!



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日端奈奈子
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