靴が好きということ。
私は靴が大好きだ。
特に好きなのはポインテッドトゥのピンヒール。なぜかバレエシューズやスニーカーが似合わないなと長年疑問に思っていたのだが、その理由が骨格診断でストレート型だからと最近判明して納得した。
とにかく短足なので常にハイヒールは欠かせず、よく歩く夏の日はウェッジソールのサンダルを履き、冬の日はヒールのしっかりしたブーツを履くことにしている。
アルゼンチンタンゴにはまったのは、音楽ももちろんながら、あの美しいタンゴシューズが履けるというのも大きかった。今はタンゴを習う機会がないのでお休みしているが、靴はイブニングドレスを着る機会があると履いている。屋外でも履きたいので、再開することがあれば次はスエードソールではなく革のものを買おうと思っている。
靴屋を見かけると、とにかく気になる靴に足を入れてみたくてたまらない。私がそんな風なので、最初はアディダスのスニーカーとドレスシューズしか持っていなかったパートナーも靴道楽になってしまった。紳士靴は高いなあと内心思いながら、自分に責任があるのは明らかなので買い物に付き合っている。
日本だと自分にサイズの合う靴があるのでうれしくて、帰国して1年で既に下駄箱からあふれるほど買ってしまった。高くても靴擦れで足がボロボロになってしまうこともあるし、安くても自分の足にピッタリ合うものもあるので値段にはこだわらない。今のお気に入りはGUのハイヒールでこれがもうあつらえたようにピッタリなので毎日履いている。次日本を離れるまでにはオーダーメイドの靴を手に入れたい。
誤解しないで欲しいのが、ハイヒールは足が痛くなるもので、人によって差はあれどずっと履いて立っていればいつか必ず痛くなるということだ。私の足はたまたま先が長くなっていてポインテッドトゥを履くのに適しているのでわりと長い時間ハイヒールを履ける、それだけだ。長い時間履いていると当然痛みだすし、それでも足が長く見えたり靴の形が素敵だったりするので自分のために好んで履いている。外反母趾だったり偏平足だったり、人によって足の形や悩みは色々あるのでハイヒールを履けない人も多数存在するのだ。
こんなにハイヒールが好きな私でも、強制されて履くのは嫌なんである。
海外在住時代、パートで働いていた日本人オーナーの会社が別会社に買収された。その時マネージャーから
「新しい会社は、私服で良くなるんだって。あとハイヒールじゃなくても良くなるんだって!」
と言われ、初めてそれまで女子はハイヒールを強制されていたことを知った。オーナーはとても身だしなみに厳しいなあとは思っていたけれど、就業規則に靴の規定があったら気付いたはずなので(生徒手帳やマニュアル等は全部読むタイプ)書かれてはいなかったのだと思う。立ち仕事でも私は自分が好きでハイヒールを履いていた。連日でどうしても腰や足がしんどい時はウェッジソールにして何もそれには言われたことがなく、強制されていたことに気付かなかった。唯一辛かったのは館内停電になり、7階まで非常階段を駆け上がって非常扉を開け、火の元を確認してまた駆け下りてこないといけなくなった時だ。ヒールを履いてきたことを心底後悔した。
実は強制されていたことをもし知っていたら、私はどんな気持ちで毎日その会社で働いていただろうか。
本業の方は幸いハイヒールを強制されることがない業界なので、状況によって靴を変えている。というか、もともと完全に男社会だったので、女性の服装に関する規則が存在しないのだ。立ち仕事の時はハイヒールのローファーやフラットシューズを履くし、座りの時は自分のテンションを上げるためにタンゴシューズを履くこともある。ピンヒールでもできないことはないけど、最近は自分の体のことを考えて、またパフォーマンスを上げるために避けることが多い。そう、ハイヒールは身体に悪いのだ。
日本に来て一番違和感のあった広告は、走れるハイヒールの広告だった。社会人が走るってそもそもおかしいし、そんな過酷な状況で働いているのにハイヒール履かないといけないってどういう環境なんだろう、と驚愕した。
その後、石川優実さんの#kutooの運動を知り、そりゃそういう運動が起こるのは当然だろうと思った。今まで疑問に思った人がいなかったわけではないのだろう。だけど日本で自分が言い出しっぺになって何かすることのハードルの高さは身をもって知っている。もちろん署名をしたし、するにあたって少し調べてみた。彼女に届いたというクソリプの数々を見て、眩暈がした。
履きたい人は履けば良い。履きたくない人は履かなければ良い。
ほかには何も関係ない。性別すらも。男だって履きたいなら履けば良いし、女だって革靴の方がよければ革靴履けば良い。
自分が履きたい靴を履きたい時に履かせろって話。
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