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ショートショート『恐竜時代』
「ねえ、これ見て。恐竜時代」
そう言って、有希の隣にいた由美が突然、視界から消えた。有希が目線を落とすと、由美はすぐ横で無邪気な笑顔を見せながら、しゃがんでいる。
川又由美が無邪気なのは笑顔だけでない。岩田有希と同期入社の彼女は、よく言えば知的好奇心旺盛で、悪く言えば夢見る夢子ちゃんである。
新入社員同士の飲み会で名前が似ていることから会話が始まり、2人はすぐに仲良くなった。現実主義の有希、ど
あいつの出世(後編)
俺は地元の私大に入学した。
「どこ高なの?」
こう質問してくる奴に出身校を言うと、皆、口を揃えてこう言う。
「え……。どうしてここの大学に来たの……」
どいつもこいつも同じ質問ばっか。俺の勉強が足りなくて国立落ちたからに決まってンだろ。
でも、こんな大学の学生でも腐ってはいけない。就職活動という次なる選抜が待っている。もう同じ轍は踏まない。俺は「企業」に狙いを定め、入学と同時に真っ直ぐ進むのだ
あいつの出世(前編)
高校時代、俺は無敵だった。
進学校に入り、弓道部に入った。部活では処世術を存分に発揮し先輩に可愛がられていたし、大会での成績もそこそこ。友だちだって多いし、成績だって良かった。――理数科目以外は。
俺は高一の時、八組だった。一番端っこのクラス。これは別に成績が悪いからではない。俺の高校では、音楽、美術、書道のうちどれかを選択することになっていて、一番希望者の少ない書道は自動的に端っこ