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シリコンバレーはじっこぐらし
シリコンバレー。そこは、ピカピカのオフィスビルや最新テクノロジーが渦巻く街、、、なイメージ。でも、私が住んでいるのはその“はじっこ”にあたるソラノカウンティ。ここは都市であるサンフランシスコやシリコンバレーの中心地、サンノゼエリアとはまるで違う、のどかな自然と広大な沼が広がる土地。朝起きて窓の外をのぞくと、目の前の沼があふれそうになっていたり、逆に水位が低くて桟橋が30度以上下がっているのでびっくり。どうやら海水と川の水が混じっていて、満ち引きで姿を変えるらしい。東京都心出身で、自然に憧れていた私にとってはちょっとした自然観察ショー。しかも「今日は水多め、風強め、漂流物あり。」と気まぐれに変化するから、つい眺めるのが日課になっちゃいました。
この辺りはカモやらやたら鈍臭いハエやら、とにかく羽のある生きものがわんさかいます。中でも私が密かに“肩パッド”と呼んでいる黒い体に赤い肩を持つ鳥がいて、その小鳥が発する鳴き声がまた変。テキストにすると「うびゅ〜」としか表現できない、なんとも味のある鳴き声なんです。最初にその声を聞いたときは、「なにがおきてるの?」と周囲を見渡してしまったけれど、空を舞う肩パッドを見つけた瞬間、「あ、あなただったのね」と納得。時代錯誤なデザインのファッションを堂々と披露する小鳥たちは、どことなく愛嬌があります。
私、2018年の渡米当初からコロナ禍の2022年初頭まで、シリコンバレーの中心地、サニーベールで暮らしていました。そこは日本人コミュニティも多くて居心地は良かったけれど、家賃の高さに見合うエキサイティングな何かがあるわけでもなく、ちょっと物足りなかった。コロナ禍で家にこもりがちになったこともあって、「自然と暮らしたい!広い家に住みたい!」と夫も私も思うようになりました。そんな時、ワイナリーオーナーで一足先にソラノカウンティに家を買っていた友人に、いかに今ここが買い時かという熱心なプレゼンをうけ、えいや!とソラノカウンティで家を買ってしまったというわけです。あそこまで家を買わせるのがうまいリアルターはいないんじゃないかな…と思うくらいの巧みな話術で、さらに内見まで一緒にしてくれた友人には感謝です。サンフランシスコまでも車で40分ほどだし、ワインで有名なナパや学生街・バークレーにもそこそこ近い。都会すぎず、田舎すぎない、このバランスが私にはしっくりきています。
ちなみに夫はエンジニアなのに、ラーメンへの愛が高じて自家製麺のビジネスを始めたんです。以前サニーベールの自宅でラーメンを友人に出していたところ、口コミが広がって20人ぐらいが庭にラーメンを食べに来ることも。今はお店向けに麺を卸していて、まだまだビジネス面での試行錯誤が続いていますが、「ベイエリアに美味しい麺を届ける」という熱い想いを持って頑張っている姿は見ていて頼もしいです。最近は私もビジネス面でサポートしています。
私はアーティストとして現代アートとカテゴライズされる作品を作ったり、オリジナルキャラクターのスモールビジネスをしたり、更には日本のスタートアップのUS向けのマーケティングの業務委託を受けたりと、いろいろやっています。アメリカ市場で成功するには、やっぱり現地の人の考え方を素直に聞いて、理解することが大事だなと、しみじみ感じる日々です。
そうやって夫婦そろってやりたいことに勤しんでいるうちに、いつの間にか「シリコンバレー暮らし」とは似て非なる場所に落ち着いていました。でも、自然の変化を隣に感じる暮らしは意外と奥深くて、ちょっとした発見が毎日転がっています。東京育ちの私としては、「こんなに広い空がまっピンクに!」と美しい夕焼けに毎回感動。便利さを少し手放した分、のんびりとした幸せや自由を得た感覚です。これからも、この“シリコンバレーの端っこ暮らし”を満喫しながら、面白い瞬間をたくさん見つけていきたいと思っています。そして、そのことをこうやって、書いていきたいと思っています。