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#01 幸せの種 |超短編小説|1話完結

 ある晩のこと、彼女はぼんやりと澄んだ夜空を見上げていた。今夜はやけに星がきれいに輝いている。

 半年前に兼ねてから闘病中だった親友を亡くしてからというもの、心はずっと空っぽだった。笑うことも、何かに感動することもなくなり、ただ毎日をやり過ごしていた。

 しばらく星空を眺めていると、一瞬、ひときわ輝く星が流れていくのが見えた。

「え! 今のって流れ星かな!?」
 思わず声を上げたあと、ふと亡き親友の言葉が、心に浮かんだ。

「何かつらいことがあったら、空を見上げてみて。私が笑ってるって思えるから。」

 出逢った学生時代の頃から、入退院を繰り返していた親友。いつかの病室で、冗談のように笑いながら親友が言った言葉。

「なんでよ、空を見上げなくてもずっと一緒にいてくれるでしょ!」

 彼女はとっさに励ますように返し、親友は静かにうなずいてくれていた。

(あれは、自分がいなくなった後の私のことを思って…言ってくれていたんだよね…)

 胸の奥のほうがきゅっとなり、涙があふれてきた。
泣いちゃダメだ…そう思った瞬間、体の周りがふわっと温かくなり、なぜか親友がすぐそばにいるような気がした。今まで抑えていた感情が一気にあふれ出し、彼女は声をあげて泣いた。


 数日後、彼女は仕事の帰り道、ネットニュースの「流星群」の記事がふと目にとまった。

「あれ…そうか、あれ流星群だったんだ。だから流れ星が見れたんだ…。親友がそばに来てくれたのかと思っちゃったな…。」
 そう一人つぶやくと、何ともいえない切ない気持ちがこみ上げてきた。

 でも、あの時の、あの何とも不思議なあたたかい感じ…。

 彼女は突如、こう思い直した。

「もしあれが何でもない流星群で、ただの流れ星だったとしても、私には特別な時間のように感じた。うん。親友が逢いに来てくれた気がした。それでいいよね。」


 真実は、時にどうでもいいのかもしれない。
あの流れ星を見たことで、彼女の過去の記憶が、彼女自身を励ましていたのかもしれない。
 たしかなことは、あの夜きれいな流れ星を見て、親友を想い出して泣いたこと。そして、そばに親友がいるかのように温かく感じたこと。


 スマートフォンの画面をそっと閉じ、彼女は深く息を吸い込み、また夜空を見上げて微笑んだ。そのまま息を吐くと同時に、肩の力が心地よく抜けていくのを感じていた。

「あなたは、そこから見てくれているのよね。私も、あなたのことを見守っていくからね。」


 それからの日々、彼女の中で何かが少しずつ変わり始めた。 趣味だった絵を再開し、日常で小さな幸せを見つけることが増えていった。


 どんな出来事にも、星の数だけ真実があるのかもしれない。
 生前の親友との会話を想い出したことをきっかけに、彼女は自分らしい日常を取り戻していった。



あとがき

 3年ほど前、20代の知人の親友が亡くなられた時に受け取ったメッセージ(※)をヒントに創作しました。
 余談ですが、その時は知人からその訃報を聞いたと同時にメッセージを受け取ってしまったので、その場で知人に伝えました。知人は戸惑いつつも、その内容に驚いて受け入れてくださり、感謝していただけました。
 が…。メッセージを受信している時の私の様子が別人のようで、感謝の一方で、普通にドン引きしていたことを後から聞いて…内心へこみました(苦笑)。伝えないほうが良かったかなと、悩みながら過ごしていた時期のことです。

※メッセージは、頭の中に直接イメージで降りてきます。それを脳内で言語化してお伝えする感覚。経験的にこちらからの質問は、言語が通じる印象です。一度、身近なアジアの方が亡くなられて"行き先"に迷われていらっしゃった時は、こちらの日本語が通じず、困ったことがありました(真夜中だったので思いつかなかったけど…Google翻訳…使えたかも…)

 科学的にまだ発見されていない、人の”記憶”の素粒子とか…あるんじゃないかな?と、疑ったりしています。

最後までお読みいただき、ありがとうございました✨ *芳雪*


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