一川華 Nana Kiera Ichikawa

劇作家、翻訳家。幼少期をタンザニアとパキスタンで過ごしたことを機に、セクシュアリティや…

一川華 Nana Kiera Ichikawa

劇作家、翻訳家。幼少期をタンザニアとパキスタンで過ごしたことを機に、セクシュアリティや差別をテーマに創作活動を行う。代表作に女性性器切除を取り上げた『風-the Wind-』、ナイジェリアの赤ちゃん工場事件から着想した『人魚の瞳、海の青』、翻訳作品に『Bad Roads』他。

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  • 創作(戯曲・小説・詩)

    過去に創作した戯曲・小説・詩を掲載しています。 長編戯曲は最初の10ページを公開しています。

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  • シビウ 国際演劇祭 2019 (FITS)

    シビウ国際演劇祭2019ボランティアスタッフ体験記です。 俳優座さんのアテンド、通訳などを経験しました。

  • 身体について

  • ロンドンダイアリー 2018

    2018年、ロンドンのFinborough Theatreにて約4ヶ月間インターンとして勤務しました。その時に書いた、2つの独り言です。

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「生理」を理由に断って来たセックス

(✳︎文中、直接的な性表現があります) 大学二年生の時、先輩と学校主催のパーティーを抜け出した。沢山の生徒たちがカラオケで盛り上がる中、二人で気後れしてしまい空き教室のプロジェクターを使って映画でも見ようという話になった。お互い恋人と別れたばかりで、時間は22時を回っていた。 広い学校の敷地内を歩き回って、パソコン室が入っているビルへ入った。5階か6階の教室ならきっともう誰もいないし、警備の見回りも来ない。電気の消えた校舎はひんやり寒くて、少しだけどきどきした。廊下の真ん

    • サイード

      今朝、小学5年生から中学2年生になるまで住んでいたパキスタンの家で、使用人※として働いていたサイードが逝去した、と知らせがきた。 もう十年以上も会っていなかったけれど、突然の知らせはひどくショックだった。長く闘病していたことも知らなかった。この文章を書いてる今も、目に涙が溜まっている。振り返ると、幼少期の記憶が一緒に蘇ってきた。 タンザニアに住んでいた時は、エイズで使用人が亡くなったことが数回あった。今でも覚えているのは、アイロンを担当していたエリアス。優しくて、笑顔がチ

      • 【詞】 scrap (30) book

        scrap (30) book 詩:一川華 一冊の台本 ここがはじまり 劇場の光は 消えたまま 時は過ぎていく  何ヶ月? 永遠のよう  続く日々の中で    本を開く 広がる  自由の日々が 稽古場 楽屋 板の上さえも 幸せが 心臓の音が 集まる場所  上がる体温 世界を生み出す日々   芝居は 日に日に奪われる 台詞は世界を彷徨う    今は何ができるだろう? せめて … 心を灯火に変えよう    生を求める日々 一人のとき  寂しい夜  画面越しの声をいま 君に届

        • 歌舞伎町でいらない5000円を稼ぐ

          歌舞伎町を歩いていた夜21時、目的地の場所が分からなくなり、騒がしい飲み屋の前でGoogle Mapを開いた。落とした視線の中、私の黒い靴のちょうど前に、顔を合わせるような形で、見知らぬ二足の靴がパーキングされた車のように止まった。距離が近い。飲み屋への勧誘か、ナンパか。避けるように歩き出すにも、顔をあげる必要があり、話しかけられるであろうリスクに心を痛めながらも、スマホから顔をあげた。 そこにいたのは、大きなリュックを背負った四十代半ばの中年男性だった。思わず「こんにちは

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          祖母の手

          家に帰宅したら、隣に住んでいる祖母の手が血まみれだった。間違えて、ドアに指を挟み爪が潰れて出血が止まらないらしい。親指に巻いてある大きな包帯には血が滲んでいた。おまけに、病院からもらった診断書の内容もあまりよくなく...。心が本当に痛い。 2017年を思い出した。初めて、祖母が肺がんだと診断された年。ショックのあまり、『今夜、あなたが眠れるように』を書いて、仲間と創作して、痛みを消化した。私の家族関係を反映させたような作品で、祖母が病で死んでしまうラストだった。東京公演を観

          SNSで切れてしまった人たち

          最近、会話をしていて楽しいと思う相手がいた。住んでいる場所も近くて、バックグラウンドも似ていた。連絡先が欲しい、と言われてインスタグラムある?と聞かれた。持ってないけどラインならある、と言ったらあとで交換しようという事になった。 別れ際にIDをもらった。紙に手書きで書いてあって、なんだか可愛かった。けど、そういえば私、ラインのID検索できないんだった。と気づいた時にはもう一人だった。番号か、Facebookを聞けばよかった。でも、知っていたのは苗字と出身大学くらいで検索も出

          SNSで切れてしまった人たち

          生理についてきちんと語りたい

          「3階の奥です」 二日間くらい軽い吐き気に悩んでいたら、やっぱり生理になった。 トイレの棚を見ると、いつも使っている夜用のナプキンが切れていた。21時から友人と会う約束をしていたから、待ち合わせ場所の横にあった薬局に入ることにした。 新宿の薬局は21時を過ぎていても混んでいて凄い。シャンプー、リンス、マスカラ、目元のパック、目薬、ビタミン剤... 棚の間を全て歩き回ったけれど、生理用品がない。近くにいた男性の店員に「生理用品、どこにありますか?」と聞くと3秒くらい沈黙が

          生理についてきちんと語りたい

          痴漢史

          今日、久々に痴漢にあって驚いた。満員電車の中、身体の距離0ミリの背後にいたサラリーマンが健気にスクワットをしていて健康志向だなあと思っていたところ、私のお尻の部分に性器が当たるように動いている事に気づいた。不健康な人だった。 でもそうだよね。こんな息もできない満員電車の中でスクワットなんかしないよね、と妙に納得してお尻の間に男性器が軽く挟まりながら二駅通過した。後ろを向いて顔を見ようかと思ったけれど、怖くて出来なかった。身長は170センチほど、おそらく30代後半だった。丁度

          ななのルーマニア シビウ日記 part.5 俳優座アテンド①

          part.4トレーニング期間で終わっている時点で、この先がどれほど目まぐるしく、息つく暇もないくらい楽しかったかが伺える。(ただの更新をさぼった言い訳...) シビウから帰国して、人魚の瞳、海の青 公演を終え、深奥と夢鬱の稽古中。二つの公演を挟むと、なんだか6月の記憶は少しだけ遠い。忘れたというわけでは決してなくて、まるで一年前のことみたい。まさか、まだ二ヶ月も経っていないだなんて。 時系列順に書きたいから、これを書きたくないけど....  実は人魚の初日(7月20日)

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          ななのルーマニア シビウ日記 part.4 トレーニング期間

          ルーマニアはドラキュラを産んだ国で有名。 この国に入って3日目、なんと人生初の親知らずが歯茎を突き破って生えて来た。おまけに上の歯!ほっぺの裏側に突き刺さりとにかく朝から激痛。このまま私もドラキュラになるかもしれない。恐ろしい、ルーマニア...。 ボランティアとしてのトレーニング期間も終盤に差し掛かる。 コントラクトにサインを書き、仕事の割り振りと共にこのバッジを貰った。Company & Vip。面接の際に希望を出したとおり、日本と外国カンパニーのアテンドと日本人ゲス

          ななのルーマニア シビウ日記 part.4 トレーニング期間

          ななのルーマニア シビウ日記 part.3 ご飯

          毎朝、スパイクが鳴きながら部屋のドアを引っ掻く音で目が覚める。ドアを開け、ベッドに戻るとこの子もついてきて、ぴたっとくっついて離れない。東京に帰りたくない! 1日1日が信じられないほどのスピードで過ぎ去っていく。朝が来て、夜が来て、また朝が来る。あの出来事は昨日だった?それとも一昨日?出来事の順序の記憶が少しずつ曖昧になっていく。肌が少しずつ黒くなり、熱を帯びてジワジワと痛い。同じボランティアのダンサー/写真家のしんごちゃんに「黒くなった」とこれ以上ないほど冷静に宣告され

          ななのルーマニア シビウ日記 part.3 ご飯

          ななのルーマニア シビウ日記 part.2 オリエンテーション

          午前9時 NATIONAL THEATRE前集合が当たり前になってきた。出発前に配布されたボランティアに関する約30ページの資料を握りしめて劇場へ向かう。全てに目を通してあるものの、情報量が多すぎて全てインプットが出来ているのか不安で仕方がない。そして、他のボランティアも自分と同じくらい不安であることを祈る。 NATIONAL THEATREまでホームステイ先から徒歩約20分。どんなに疲れていても1日が朝の散歩からはじまり気持ちがいい。(寝坊すると否応なしにランニングになる

          ななのルーマニア シビウ日記 part.2 オリエンテーション

          ななのルーマニア シビウ日記 part.1 シビウへ

          《人魚の瞳、海の青》の稽古真っ只中、全くパッキングをしていなかったことに気づく。焦って、3週間分の洋服やシャンプー、日焼け止めやサングラス、とにかくいりそうなものからいらなさそうなものまで大きなスーツケースに突っ込んで、成田エクスプレスに飛び乗った。ドーハを経由して、ルーマニアへ!父が初めて行った外国もルーマニアだったらしい。でも、ルーマニアと言っても目指す場所はブカレストじゃない。トランシルバニア地方にある小さな古都、シビウだ。 ドーハまで約11時間。隣に座っていた女性二

          ななのルーマニア シビウ日記 part.1 シビウへ

          見知らぬ男性に身体を触られる事・触られても平気な事

          2018.11.10 タンザニアの友達から、フェイクの婚約指輪をしていないと女は一日に何度もプロポーズも受ける、という話を聞いたことがある。 私と同い年の彼女が、今までで受けた(見知らぬ男からの)プロポーズは数えきれないものらしい。だから、必ず左の薬指にはお守りを。彼女は、それがタンザニアではマストなんだ、と笑っていた。 彼女は、今はアメリカにいるけれど、H&Mで数ユーロで買ったという指輪をまだ必ず持ち歩いているらしい。それがないと、なんとなく不安だと。 彼女に小さく共

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          劇場にいなくてもいい劇作家が、初めて劇場で働く

          2018.09.06 舞台芸術に関わることを始めてから7年の月日が経ちます。最初は役者になりたい、と思い演技の勉強を始めてから束の間、気がつけば今では劇作家志望。スタジオや稽古場でもがいていた私は、気付けば人に囲まれることなく机に向かって地味に、それはもう本当に地味に、書き続けなくてはいけない作家という職業を目指すことを決めました。7年前の私は、今後7年間演劇を続けていくこと、大学に入っても演劇にのめり込み続けること、とっても素敵な人から君は劇作家になれ、と言われること、そし

          劇場にいなくてもいい劇作家が、初めて劇場で働く