過去の1場面物語。
これは数年前の6月に書かれたものです。
ほんの少し修正。
今年は雨が少なそうで心配です。
雨も好きよ。
お借りしたイラストみたいに雨は優しい色をしている時があるね。
静かな水音で私は目を覚ます。
自分の身体を濡らす露で今朝は雨だと気がつく。
「そうなると、今日はあの人がやってくる」
雨は恵み。心を癒やしてくれるのだ。
太陽が恋しく感じるくらいの雨が
健全な心には必要だなと私は思う。
いつかは晴れる。という事の力は偉大なのだ。
「あのね、私は雨が好きよ」
気づいたら足元に来ていた彼を見つめながら、私は言葉をつづけた。
「だって雨の日には貴方に会えるもの。」
深い森の中には何時もの喧騒はない。
ただ濃い気配に満ちているので
静かか?と問われると僕は違うと思う。
水がこんこんと湧き出る池を傘をさしながら眺める。
水面に当たる雨粒が美しい波紋を次々につくる。
自分が「傘」という文明に頼り、安全な「靴」を履いて地面に接しているのを嫌というほど感じ取る。
そう、僕は人。人間なのだ。どうしようもなく。人間なのだ。
誰もいない森に雨の日に通うのは、駄目人間である自分を見つめるためか、見捨てるためか。
わからないくらいなら問わなきゃいいのに
問い続けて現在がある。
「僕は生きていていいのだろうか?」
「もちろん。私は、貴方を見ているよ」
「仕事も私生活も面倒なんだ。どうしたって上手く行かない。」
「やまない雨はないのよ。いつかは晴れてキラキラ輝きだすの。」
「…僕は、木や花に生まれたかった。そうしたら、そうしたらこんなにこんがらがった気持ちにはならなかったんだ。」
「私は…」
私は、人間だって素敵だと思う。
空気を震わせ会話を楽しめるのは動物の特権だし
色々なところに移動したり、好きなときに好きなように出せる「表情」というやつも羨ましい。
私が、私がどんなに貴方に想いを話しても、
ただの一声さえ伝わらないのだ。
その背中をそっと撫でてあげたくても
私の葉では冷たい露を落とすのが精一杯だ。
それに、その傘。貴方と私の間を隔てる世界。
「雨森の中で独り言なんて僕はなんて根暗なんだろうね。」
「違うわ。独りぼっちなんかじゃないわ。私が此処にいるわ。こうして、貴方と並んでる。ずっと何時だって。此処にいるわ。」
「僕は…」
僕は此処に居ると、何故かあんなに嫌った喧騒を懐かしく思う。そして、帰りたいと思うのだ。
僕は僕を人の世界に繋ぎ止めるために自然を「利用」しているんだ。ただ健気に生を全うする彼等を、人より下等だと見下して何処かで悦に浸りながら何とか人の世界にギリギリしがみついている。
何て惨めな生き物なんだろうね。とてもじゃないけどまともじゃないよね。
「忘れないで。いつかは晴れること。必ず。」
雨が降る森の、こんこんと湧き出る池の水は何時も水。
雨が降る森の、凛と立つ木々は何時でも木々のまま。
雨が降る森の、其処に立つ人は何時だって人だから。
それぞれの想いも生も
めぐり何時かは果てていく。
今日も其処は、其処でした。
今日も此処は、此処でした。