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砂鯨を追う 四砂目 港の
青年は出会う
それは果たしていい出会いなのか
動き出す物語
「レーヴェ……どうして…」
リリベットにそう呼ばれた星の住人は加熱前のルビーのように少しくすんだ赤い髪を1つに束ねている。金褐色の瞳はまるで獣のように鋭い光を宿し迫力がある。
「リリベット。また浜に降りたね?砂流れの酷いときはやめなとあれ程注意したのに。」
酒に焼けたような声だが良く通る。
迫力が足されて、まるでライオンに吠えられているような気分になる。
目の前の長身の老女はそういう気迫のある人だった。
「他の連中が、リリがいないと煩いから探しに来たんだ。そしたら……異星人と歩ってるじゃないか」
僕をちらりと見て老女はため息を付く。
僕はさっきから背筋を伸ばし、少しでも無礼のないようにしている。本能が告げているのだ。この人に逆らってはいけないと。
「…は、浜に降りたのはごめんなさい。でも、この人倒れてて…それで…」
リリベットは手をもじもじさせながらそう言った。なるほど、僕のせいか。
「す、すみません。僕が倒れていたせいで…」
思わず僕も謝る。
他人が怒られているのってなんか嫌なんだよね。
もじもじと謝るリリベットと、やはりもじもじと謝る異星人を見てレーヴェはため息を付く。
『やれやれ。仕方のない子達だね。』
「で、そこの異星人さんは…見たところ旅行者ではなさそうだ。」
「あ、えーと……」
僕は返答に困った。本当の事を言うべきか否か。
「この人は、せんせいって言うの。チキウから来たんだって……」
リリベットが話を繋いでくれた。
有り難う。ローズクォーツの様に優しい子だなぁと改めて思う。
「そ、そうなんです。でも、あの、星移動に失敗しちゃって…荷物とか送れなくて…あはは」
僕は嘘ではない言葉を選び説明をした。
老女は僕をじっと見る。
本能は告げている。目を逸らせと。
しかし、その金褐色の瞳に捕らえられると不思議と目が離せない。
老女はまるで獅子が獲物を狙うかのように静かに僕を眺めていた。
どれくらい時間がたったのだろう。
多分、数十秒のその時間は、とてつもなく長く感じた。
冷や汗が背中を伝う。
そして、老女がはゆっくり口を開いた。
「せんせ、そのポッケにあるものを全部出しな。」
「…えっ?!」
僕のポッケの中には家の鍵と…あの隕石。
どうする。出すべきか。なんでわかった?いや、ハッタリ?この星ではポッケの中身を見せ合うのが正式な挨拶なのか?
僕の思考がぐるぐると巡りだす。
まさか地球から遠い遠い惑星でカツアゲのような台詞を聞かされるとは思っていなかった。
「せんせい。出したほうがいいよ。レーヴェに嘘は通じない…」
リリベットが、抵抗するなと美しい瞳で訴えてくる。
嘘が通じない?読心術でも使えるというのだろうか?
「なんだい?出せないのかい?」
レーヴェの声に迫力が増す。
まずい。ここで、この星の住人を怒らせては当初の目的どころではないかもしれない。
それどころか、僕の命も危ないかもしれない。
僕はおずおずとポケットの中身を取り出した。
「これで…全部です。」
手のひらに乗せられたのは家の鍵。大好きなハチドリをかたどった七宝焼乃根付がついている。そして、724 円ぶんの小銭。それから……あの隕石だ。
「やはり、砂鯨か…」
老女は僕の手をしげしげと眺めて呟いた。
砂鯨?隕石のことか?この隕石はこの星の生物と関係が?いや、鯨と言ったが生物とは限らない……気になる。
「あ、あの…」
僕は勇気を振り絞り声を出す。
僕の手のひらから僕の顔に視線を移した老女に
「砂鯨ってなんですか?僕は……この石の事が知りたくて、この星に来ました。これ以外は、見ての通り何も持っていません。どうか、何もない僕に教えてくれませんか?」
一息に畳み掛ける。
胸がドキドキする。
ライオンに美味しくないから食べないで、でもサバンナを案内してと言う機会があったら、多分同じ気持ちになるだろう。
老女はきょとんとした顔をしたあとに
「ハハハッ!!とんだお願いをする異星人のぼうやだねっ!!しかも、私相手に!!肝が座ってるのか、馬鹿なのか!!」
大きな声で笑いだした。
ひとしきり腹を抱えて笑った老女は、まだ苦しいと言わんばかりに腹を擦りながら僕を見た。
その瞳に、先程の鋭さはなかった。
「いやぁ、たいした異星人だよ。本当に。ま、危険もなさそうだし、嘘もなさそうだ。何もないのに…よくもまぁ…いいよ。話してやる。」
「有り難うございます…えっと…」
「レーヴェだ。せんせ。みんなは私を頭と呼ぶけどね。」
「有り難うございます。レーヴェ。」
二人のやり取りを先程から、身動き一つせずに見守っていたリリベットがホッと胸をなでおろす。
「良かったね。せんせい。レーヴェは一番物知りだから……」
「有り難う。リリベット」
レーヴェはうんうんと頷いた後に、リリベットをじっと見つめてこう言った。
「良かった、良かった。しかし、リリベット。あんたは浜に行こうとしていたんだから、それについては私は見逃さないからね。」
リリベットが小さな悲鳴と共に震えるのを見て、僕は本当に素直にポケットの中身を出して良かったと思ったのだった。
✽✽
星に小さな小さな流れ星の子供がおちました
それは他の石たちと手をつなぎ
大きな大きないのちになりました
お歌がきこえてくるときは
うみに舟をうかべましょう
この星のあるがままにいき
あるがままにおわりましょう
✽✽
「ここで立ち話もなんだ。港の小屋で話そう」
レーヴェがそう提案してくれて、僕と震えるリリベットは共に港にある小屋に来た。
小屋は地球で言うところの地中海に建つ家のように白い。
小屋の中には簡素な椅子と机。
竈らしきものがある。
電球…らしきものはないが、天窓から明かりが差し込み部屋の中は驚くほど明るい。
白いから反射するのだろう。
「さて。何から話そう。」
「僕は、この石の声を聴きました。僕の星の生き物に似た声でした。」
「ほう」
「僕はこの声の主に会いたい。ただそれだけなんです。」
僕は机の上に置いた隕石を眺めた。
キラキラと輝く。
地球にあった頃よりも綺麗に輝いている。
まるで隕石が帰郷を喜んでいるように見える。
「あんたは運がいいのかもね。今が、この石の声への最短ルートだ。」
レーヴェはそう言って話してくれた。
隕石の正体は「砂鯨」と呼ばれる巨大な生き物の頭部に出来る結晶だということ。
レーヴェ達はそれを追い求め砂の海で漁をする者達だと言うこと。
近いうちに漁に出るつもりだったが、ここ数日海が荒れていて、たまたま浜にあがっていたこと。
海が穏やかになったら舟に乗せてやるとも言ってくれた。
ザッとだがそんな感じの事を話してくれた。
もっと警戒されて、打ち解けるまで何も聞けないとる思っていた僕は事の進みの速さにびっくりした。
「自分で言うのもなんですが、怪しげな異星人の僕に何故そんなに親切にしてくれるんですか?」
「この星の教えだからね。《星のあるがままに生き、あるがままに死ね。》星があんたを拒まなかった。ならば、星に生きる私達もあんたを拒まない。まぁ、生活を邪魔されれば戦いもするが、あんたはそういう人じゃない。私にはわかるのさ。」
レーヴェはそう言って笑った。
漁に出られるようになるのは3日は後だと言う。
「それまでに、この星の事でも知りな。リリベット。あんたが教えてあげな。浜で拾ってきたのはあんただからね。」
まるでペットか何かのような言われようだが、どうやら今回のお咎めはそれでチャラと言うことらしい。僕は震えていたリリベットがホッと胸をなでおろすのを見て微笑んだ。
「宜しくね、リリベット」
「こちらこそ。せんせい」
こうして僕の砂鯨を追う旅はやっと始まりの地に着いたのだった。
《作者のあれこれ》
さっき三砂目だしたじゃん?みたいな。
一気に書いてしまったのです。
やっと主人公が始まりに立ちましたね。
題名の回収。
次は星について少し書きたい。
地球との違いとか。
砂の星の人たちの事とか。
もちろん、漁に出るシーンとかもモリモリ。
メモが増えていきます。
せっかくのメモつかわなかったりね。
作者のやる気と元気にかかっているこの作品。
暑くて暑くて
あれですが、ちびちび書いていきますので
どうぞ宜しくね。
銀河の果から愛を込めて。
始まった物語。
星を知る物語。
©2022koedananafusi
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