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『I AM STILL』BTS・ジョングクドキュメンタリー

これから私が書くことは、ばかみたいと言われるかもしれない。
というか私自身がそういう人間だった。BTSを好きになるまで。
アイドルを好きになって、好きな気持ちがあふれすぎて涙が出る、
なんてことを誰かが話していたら、私はばかじゃないかと鼻で笑っていたし、軽蔑していた。

そんな私が、まさかスクリーンに映る推しをみながらハンカチで涙を拭いているなんて、ほんの数年前の自分では想像すらしていなかった。

でもBTSに出会って、アイドルに夢中になる気持ちを知った今、そんな自分を深く反省している。
誰かを好きになって応援すること、必死になって推しを追うことが、こんなにも自分の救いになるとは。BTSに出会う前の私は知る余地もなかった。

先週末公開となったBTS最年少メンバーの、ジョングクのソロ活動を追ったドキュメンタリー映画『I AM STIlLL』を友だちと観に行った。
TOHO日比谷のスクリーン1は、通常のスクリーンよりもかなり大きいプレミアムシアター。映画好きで毎週映画館に通う私も、あまり入る機会がない。
今回は、時間の都合で日比谷を選んだのだけど、ここでグクのドキュメンタリーを観ることができるとは思っていなかったので、劇場に入った瞬間から期待が高まった。とは言え、映画のつくりそのものにはあまり期待していなかった。スクリーンでグクが観られる、その程度の軽い気持ちで観に行った。

その予想に反し、映画は、グクがソロ活動にどんな気持ちでのぞみ、何を残したのかが、ちゃんと伝わる作品に仕上げられていた。

わずか8ヶ月で一枚のアルバム、しかも全曲英語詞で収録し、そのうち3曲はシングルカットされMVを海外で撮影。アメリカ、イギリスの音楽番組やイベントに出演。
その忙しさはもちろんのこと、短期間であれだけレベルの高いパフォーマンスを仕上げたのは、驚異的であると言ってよい。
本人は、天才なんかじゃない、と謙遜していたが、天性のものと、努力ができる才能を持ち合わせているに違いない。
ステージ前やレコーディング前にはナーバスになり、喉の調子を崩したときには明らかに落ち込んでいた。
それでも、止まることなく、「前に進むだけ」と臨んでいくグク。
ステージに立てば、それを観た人みんなを魅了するかっこよさにあふれたグクも、ホテルに戻ればあどけない青年で、その差に少々戸惑うほどだ。
チームではいつも末っ子で、兄たちにかわいがられてきたグクが、たった一人でアメリカのポップミュージック界にその名を刻むべく挑む姿は、まぎれもない、一人のアーティストだった。

ハイライトは、ニューヨークタイムズスクエア、TSXでのライブだ。人で埋まったタイムズスクエアを見下ろす場所にあるステージに立ち、堂々のパフォーマンスを見せたグク。
ソロ活動が始まったときは、プレッシャーを背負って、あんなに心細そうにしていたのに、このソロ活動を通し、自信をつけ、アーティストとしても、きっと人ととしても大きく成長したのだと感じさせる姿だった。

すべてを終え、満足そうにホテルのベッドで横になるグク。
でもどこかそれが悲しかったのは、「3D」への批判はきっと届いていないのだな、と感じたからだ。届かない方がよかったのかもしれない、とも思わなくもないが、だけど、「3D」もグクにとっては満足のいく、大切な曲であることを見せつけられたし、世界的に起きた批判についても気にしていない様子が、悲しかった。それでも彼を好きだと感じる、かっこいと思う気持ちはどうしようも抑えることができず、複雑な気持ちになった。

ソウルで開催したショーケースライブでの「Magic Shop」が、映画のエピローグで流れた。私が大好きな曲。
グクが初案を書いた、ARMYのための曲。

心の中にもう一つ部屋がある
そこを開ければ僕たちがいていつでもいやしてあげる
だから心配しないで 君は大丈夫

まさに、彼らが私にくれたものが「マジックショップ」だった。
彼らを最初に好きになったのも、すごく辛いときで、
仕事を変えて2年目、夫は激務で毎日遅くて、子どもたちは学校をさぼりがち。
そんなときにBTSに出会って、彼らのパフォーマンスやメッセージに、どれだけ励まされたか。彼らに夢中になることで、辛い気持ち、やりどころのない気持ちをどうにか乗り越えられたのだった。
そうだった、私にはマジックショップがあったんだ、と涙があふれた。

それに輪をかけるようにして、ラストシーンは号泣だった。まだ観ていない人のためにどんなシーンだったかは伏せておく。

彼らは、当たり前のように兵役を受け入れ、やりたいことやキャリアを中断し、大切な人と離れて、軍隊にいく。特別なこととは考えていないのだろう。だけどやはり、アーティストである彼らが、頭を剃り、迷彩服に身を包み銃を背負う姿はつらい。軍隊での生活がどんなものなのかは、想像の範囲や聞く限りでしか知らないけど、でももしそれが息子だったら、私は心配で仕方ないだろう。兵役に行っている間、北朝鮮と衝突が起きないだろうか、軍隊生活でいじめられたりしないだろうか、訓練は辛くないだろうか、事故は起きないだろうか。
喜んで行く人もいるかもしれないけど、少なくともうちの息子だったら相当いやがるだろう。体力もないし、きついことも嫌い。命令されるのもきらい。戦争だって大嫌いなんだから。それでも拒否できないのだから、徴兵制は残酷だと思う。
そして朝鮮半島の歴史には、日本は大いに責任があると思うと、なおさらのこと他人ごととは思えない。

そんな、色んな思いを胸にした鑑賞後、グクの『GOLDEN』を聞きながら家に帰って、眠りにつくと、夢でもグクが出てきてくれて幸せだった。ずっと「Standing Next You」が流れていた気がする。

ここに書いたすべてのことが、BTSを好きなる前の私にとってはきっとばかばかしいことだろう。
でもそんな私をこんな私に変えてしまったのがBTSなのだ。
音楽を聴く楽しさを思い出されてくれたのも、人にはそれぞれに夢中になるものがある、それがすごく素敵なことであることを教えてくれたのもBTSだし、自分を好きでいることの大切さを教えてくれたのもBTSだった。

グクのドキュメンタリーは、そんな色んな気持ちをあふれさせる、映画としても見応えのある素晴らしい作品だ。
できたらもう一回みたい。あの大きなスクリーンで。

彼らを好きになってよかった。
「3D」のことは、今でもずっと心に引っかかっているけど、それでも好きになってよかった。

母に電話で泣きつくほど辛かったし不安だし、母の声を聞けばまた泣いてしまうかもしれないけど、でも多分、大丈夫。そう思わせてくれてありがとう。私をまた救ってくれてありがとう。

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