「ひゃあぁ落ちる、落ちる」 視界がスローモーションになる中、最後に目に入ったのは、頭に布を載せた裸の男だった。 青い空の下、平日の昼間っから浸かる温泉ほど心地良いものはない。ここに酒でも浮かばせれば最早極楽と言って良いだろう。 もう一人いた客は出て行ったため、今は貸切状態となりまさに極楽の入り口であった。 私は城崎温泉の中でもこのさとの湯が気に入っている。ここの二階にある露天にて夏の青空を眺めながら湯に浸かるのがたまらないからだ。温泉と言えど、冬とは違った楽しみ方がある
小鬼は少し戸惑っている。もう暗い境内、いつもならとっくにガランとして、鳥居までのだだっ広い一本道を存分に走り回れる時間だからだ。 しかし今日はその一本道の端にたくさんの荷物やテントが鎮座しており、のぼりも立っている。走り回るのには邪魔で仕方がないが、小鬼はしょうがなくテントや荷物の上を飛んだり跳ねたりする遊びに切り替えた。 これはこれでなかなか楽しめそうだ。 ぴょんぴょんと機嫌良く遊んでいたのだが、ある荷物に飛び乗ったところで、小鬼は立ち止まった。 何かが聞こえる。 小鬼
迷子の妖精を拾った。 彼女曰く、道に迷っているのではなく、人生に迷っているらしい。しかしよく話を聞いてみると、やはり道にも迷っているらしい。 なんだか面倒臭いなあと思いながら放っておくこともできず、とりあえず彼女には僕の胸ポケットに入ってもらった。そうするともう家に連れて帰るしかないという気になってしまったので、仕方なく部屋に連れ帰ることにした。 ハンカチで座布団を、そしてシャープペンシルの消しゴム部分のキャップをコップ代わりにお茶を出した。 「このコップ……」 「無茶苦茶
昼間にはデカンショ祭の準備で賑わっていた城下もすっかり日が落ち、ぼんやりとした街灯がぽつぽつと灯り始めた。 わたしの目が覚めたのは、そんな現と夢の狭間だった。 淡いあかりが一つ、一つとわたしの前を照らしてゆく。 誘われるままに足を運んでいると、耳元でうるさくわたしを呼ぶ声がした。昨日仲良くなった蜘蛛のモクだ。 「おい、おいって」 「なあに。さっきから」 「おれの家をこわしておいて悪びれもせずずんずん進むやつがあるか」 「壊してないよ。失礼だなあ」 「いいやこわした。現におまえ