【INUI教授プロジェクト】⑦ 第二章 Assemble『夏樹』
集合
【夏樹2】
ー くそっ!!何だって小春さんはあんなに変わっちまったんだろう!!
確かに小春のオーラの色はくすんでいたが、自らのくすみを棚に上げながら夏樹は眉を寄せてばかりいた。
毎日の様に作り続けていた枝編みの野球ボールも、夏樹が冬音との時間を長らえて行くたびに数を減らし、今では今まで作り上げられたボールでさえも見当たらない。
小人を語る冬音の真っすぐな姿勢を目にするたびに、夏樹は自らを冬音に重ねて行った。
そう…”プロ野球選手を目指す心”は、いつしか、”小人を探し当てるもの”へとすり替えられ、冬音に向けられる視線や ぶつけられる感情も、自分へ向けられているものだと錯覚するようになっていたのだ。
ー とにかく梅子…アイツをどうにかしねーと。。。
それには小春の存在が邪魔だった。
それとも…梅子じゃなくて、小春をどうにかすれば全て丸く収まるのではないか。。。そんな考えが次々と夏樹の頭に浮かんでくる。
どうやって冬音…そして自分の身を守れば良いものか…。冬音と自分以外の何も見えなくなっている夏樹は、自らがいる環境をも把握できない程になっている。監視カメラが何処かしこに設置されている事も忘れ、ただひたすら梅子の鋭い犬歯を葬る事だけを考えて…。
ー あんな凶暴な犬…俺がどうしようと責めるやつはいねー…小春さん以外は…。
頭の中に浮かぶのは、唸り続ける梅子と、その後ろで鼻で笑う小春。。。
頭を掻きむしる夏樹の目の下には、黒赤紫色に滲んだ袋が重々しくぶら下がっていた。
§
「文秋。。。ちょっと話しねーか?」
今まで自分を避けるように振舞っていた夏樹に声をかけられ、文秋の肩がびくっと跳ねた。
「あっ、、、あぁ。。。いいけど。。。」
庭の手入れをしていた文秋は、そっと手作りの鍬を地面に置いて手をすり合わせながら土を掃う。
「お前…前に毒キノコやら、木の実やら。。。色々話してたよな?俺が熱出した時も、解熱作用があるって…変な葉っぱでお茶淹れてさ。。。」
『毒』という言葉を耳にした途端、文秋の表情が一気に曇り出す。
「お前が小人を信じるか信じないかは俺の知ったこっちゃねーけど、でも、梅子の凶暴性を納めねーと、冬音も俺も危険だ。」
冬音と。。。俺。。。文秋は夏樹の冬音への同化心に眉をひそめたものの
小春の名前が出てこなかった事に一瞬だけ気を抜いた。
「梅子…すごいいい犬なのに…なんで冬音ちゃんだけに威嚇するのか。。。」
「冬音に落ち度があるっていーてぇのかお前!!!」
そう声を荒げた夏樹の顔には、半年前の穏やかさはひと欠片も見いだせない。
「僕はただ単に事実を述べているだけだよ!」
顔をふっと反らした夏樹だったが、
「冬音が魔法薬の材料が必要だって言ってるから、お前に聞きに来ると思うんだけど。。。」
キッと文秋を威嚇する様な言い方で一言
「そん時は、隠さずに冬音に教えろよ!!」
そう言って文秋が掘り起こした土を蹴散らしながらその場を後にした。
文秋に念を押す…半場脅迫の様なことをした夏樹でも、その心は平穏を取り戻せずに心の中で音を立てていた。徐に地面の石を拾い上げると、離れた所で草を突く鶏達めがけて振りかぶり投げつけた。
羽根をあちこちに散らせながら鶏達が声を上げたが、手のひらいっぱいに掴まれた石ころが、たった一つでも鶏に当たることはなかった。
ー くそっ!!マジどうすればいいんだよ!!!
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