【取材後記】古き良き町並み。"消費"するだけのわたしたちと、"投資"して未来へ繋げるひとたちと
「わー、タイムスリップしたみたい!」
「古い家ってなんか落ち着くよねー」
昨今、"ガチレトロ"のコンテンツが、若い世代に人気沸騰中。"作り物"で模した世界は飽和状態になり、本物のレトロを求める人たちが増えているのだという。
そういえば、少し前に、埼玉の西武園ゆうえんちが昭和レトロ全開のテーマパークをリニューアルオープンして話題になった。
平成に建てられた建築を、古民家風カフェにする動きも軒並み増えてきた。
その一方で、資金繰りが難しいため、歴史的建築物を維持管理できず、解体せざるを得ない事例もまた、多く目にする。その窮状を打開するのを目的に、「京都モダン建築祭」「神戸モダン建築祭」など、名建築ツアーなどが税金を投入されて開催されている。
しかしこれは、建物1棟のみを残すことだけにフォーカスされている。そこに気づいている人たちはあまり多くないのでは?と感じている。
2年前、私はこんなnoteを書いた。住宅地は、モダン、北欧風、カリフォルニア風など個性あふれる家が建ち、結果バラバラなまち並みがつくられている。観光では整った景観を求める一方で、自分が家を建てるとなると好きな家になるというのがずっと疑問だった。
突然だが、古い町並みといえばどこを思い出すだろうか。
日本を代表する観光地である京都、加賀百万石の石川県金沢をはじめ、岐阜県の郡上八幡、三重県の伊賀上野など、全国に"小京都"と呼ばれる場所がある。
文化庁が「伝統的建造物群保存地区」に登録しているエリアも多く、自治体ひいては国全体で守っていくべき、日本の歴史的価値そのものだ。
国認定の建物群と登録された。国民みんなで守っていかねばならない。でも税金はさほど投入されない。しかし国民は自分の暮らしで手一杯。さあ、どうすればいいのか・・・。
私が「重要伝統的建造物群保存地区」に登録されている兵庫県たつの市龍野地区に出会ったきっかけは、「旧中川邸」だった。
大正時代に建築された近代建築で、かつて病院として龍野地区の住民の健康を支えてきた。それを地元のNPO団体が買い取って改修し「多世代が集うコミュニティカフェ」として運営していた。
私自身が「あるものを活かす」姿勢を大切にしたいタイプで、その上カフェのコンセプトにも深く共感したこともあり、私はこの場所で何かしたいと思った。そして2017年12月に、自主企画のワークショップを二度開催した。無名の私の小さなイベントに各2組が参加してくださった。思い出の場所である。
それから7年後。姫路とたつのをつなぐ「Connect City(コネクトシティ)」と名付けられたプロジェクトがスタートするとXで見かけた。発信を見ていると「たつの空き家ツアー」を開催するという。
たつのの古い町並みと古民家に関心があるだけのただのライターが参加してもいいのかな?と遠慮がちにコメントしてみたら、ツアー主催の建築士・土田昌平さんが「もちろんです!」と前のめりにリプくださった。
その「たつの空き家ツアー」でのアテンド担当が、龍野「重要伝統的建造物群保存地区」のまちづくり会社・緑葉社を営む、畑本康介さんだった。
まちを歩いていると「おう、はたもっちゃん!」「きょうは何のお客さんなんや?」と、住民から声をかけられている。このやりとりだけで、まちに溶け込んで、ずっと貢献してきたひとなんだとすぐにわかった。
緑葉社は、空き家になった古民家や町家を買取った上、床や壁など最低限の内装改修をしてから貸し出している。借りたい人の利用ハードルを下げるためだ。外観に手を入れる場合は、まちの雰囲気を損ねないよう最小限に抑える。ここまでしているまちづくり会社・不動産会社は、おそらくあまりないだろう。
そこで"暮らす人"にまで思いをめぐらせていることに、私は感銘を受けた。なぜなら、家は人が使うものであり、そこには暮らしがあるからだ。人があっての建物であり、まちなのだ。
畑本さんは100年続いてきたまちそのものに敬意を表している。ヨーロッパの人たちの、町並みを誇りに思い、大切にする人たちの気概に通じていると私は感じた。
ツアー後に畑本さんと話すと、「旧中川邸」プロジェクトの発起人とわかり、胸がどくんとした。あれからずっと、このまちの雰囲気が損なわれないように、このまちににぎわいが戻るように、まちの人とともに、粛々と活動されてこられたのだなと。
まちを守るために、まず建物を買い取ってから管理する。会社経営とはいえ、ほぼ個人レベルでここまでやってこられた。だから畑本さんの本気の取り組みを知ってもらいたいと思った。
なぜなら、わたしたちは古き良き町並みをただ「うわー、懐かしい〜!」と”消費”する側だし、「なぜ歴史的価値ある建物を残さないのか!」と国に文句を言うだけだから。まちに一文も出していない。
ツアー参加後、興奮冷めやらないうちに観光駐車場にある待合所で企画をまとめて、担当編集者さんに送信した。翌朝地域の特徴を加えて、この取り組みがいかに稀有なのか、改めて伝えた。「いきましょう!」とゴーサインが出た。
取材すると、古き町並みには、まちを愛するひとたちが出資=身銭を切って引き継いでくれている事実があると知った。大きなリスクを背負い、想像を絶するような大失敗をしてしまうこともある。守りきりたかったけれど、失ってしまったものだってたくさんある。その苦しみはいかほどだったんだろうか。筆舌に尽くしがたい。
あなたはここまでの覚悟をもってリスクを背負えるだろうか。事業を加速させるために“暴走”してしまい、人員削減を致し方なく行ったこと。これは畑本さんがいちばん心苦しく思っておられるだろうし、ぽっと出の私が責めたてる余地などどこにもない。
「経営者はね、お守りに不眠薬をポケットに忍ばせてるんですよ」
取材時に冗談めかして苦笑いした畑本さんの顔を、私は忘れられない。
心豊かに毎日を過ごせればそれでいいと話す畑本さんのまわりには、ゆかいな仲間たちがたくさん集まっていた。
兵庫県たつの市の「重要伝統的建造物群保存地区」のまちづくりに挑む、緑葉社代表畑本さんの"窮地"の裏話を、プレジデントオンラインに寄稿しました。ぜひ、ぜひ、ぜひ、ご一読ください。
そして、たつのの町に一度訪れてほしいです。ご案内しますよ〜!