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大好きなお店を支えたくて、人見知りが花を贈った話

カワタ製菓店は本日をもって閉店させていただくこととなりました。

大変悔しいですが、偏に私たちの力不足によるところです。

それはあまりに突然のことでした。
5月25日、私の大好きな大阪のカフェ『カワタ製菓店』がInstagramに閉店のお知らせを投稿しました。

私がフォローしているカフェ好きな方々は一様に衝撃を受け、カワタ製菓店の投稿には400件以上ものコメントが寄せられました。
ご夫婦で営んでいた一軒の小さなカフェに、です。

その多くは、閉店を惜しみ、これまで素晴らしい時間を提供してくれた店主夫妻に感謝を伝え、またいつか再会できる日を待ち望む声。
でも、まったく同じ文面のコメントはひとつとしてなく、皆さん一人ひとりが「その人だけがもつ」大切な思い出とともに、お店へのメッセージを綴っていました。
それだけたくさんの人の心を潤し、癒し、温めてきたお店なのです。

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私にとっても、カワタ製菓店は単なるカフェではなく、本当に特別な存在でした。

夫と二人きりで、ろくに知り合いがいない関西に移住した1年半前。
誰かと会う予定などなく、時間ならたっぷりとあったので、関西の美味しいカフェを調べて巡っては、自分の記録用にInstagramにぽつりぽつりと投稿していました。

あるとき、そんな独り言のような私の写真に、カフェ好きな女性がコメントをくれて、頻繁にやりとりするようになって。
関西に来て初めてできた友だち。
彼女を「憧れのカフェがあって」と勇気を振り絞って誘い、初めて一緒に出かけたのがカワタ製菓店でした。

黄緑色の甘いメロンスープに浮かぶ、大理石のようなヘーゼルナッツのセミフレッド。
砕いたパイに、カモミールが香るカスタードや苺のマリネ、ミントを合わせたミルフィーユ風の一皿。

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古民家を改装した静謐な空間でいただくスイーツは、いつもため息が出るくらい美しく、素材同士が物語を紡いでいるようでした。
店主さんご夫婦の雰囲気も、まるで湖面の三日月のように穏やかで思いやりに満ちていて、お店を訪れるたびにカサカサした心に水が染み込んでいく気がしたものです。

友だちと初めて訪れてからも、一人で、夫と二人で、また一人で、と何度も通ったお店。
「コロナが落ち着いたらすぐにでも駆けつけよう」と思いながら、長い冬と春が通り過ぎるのをじっと待っていたので、閉店の投稿を見た瞬間、とてつもない悲しみと無力感に襲われました。

以前、こういった内容のご意見をいただきました。
「自分達の都合・希望が一番で、お客さんは二の次というお店。」

私たちは、このご意見の中の"自分達の都合・希望"すらまとめられない状況が続いておりました。
2歩進んで3歩下がるような状態です。

コロナウイルスの影響によって、営業を縮小せざるを得なくなりましたが、これまでの課題や今後の営業について考える時間が作れました。
結果、閉店を決めた次第でございます。

店主さんのメッセージからは、コロナウイルスだけでなく、お店への一部の批判に苦悩し、疲弊してしまった心情が滲み出ているようでした。

部外者の私には、「お客さんは二の次」という意見を投げた人の真意は分かりません。
お店に本当に否があったのかもしれないし、その人の思い込みだったのかもしれない。
ただ少なくとも、私はお店に対してそんな風に思ったことは一度もなかったし、それどころか人生を彩り豊かにしてもらったことに、感謝の気持ちでいっぱいでした。

でも、「あなたはその想いをお店にしっかりと伝えてきた?」と問われたら、「いいえ」と返事するしかありません。

「ごちそうさまです」
「美味しかったです」

そうした簡単なひと言は店頭で伝えていたけれど、その短いフレーズには収まりきらない、「私だけがもつ」大切な想いを直接届けようとはしませんでした。

なぜなら、「他の人からもたくさん褒められているだろうし、私がわざわざ言う必要はないよね」と決めつけてしまっていたから。
そして、「お店とお客さんの関係が深くなりすぎるのは良くないんじゃないか。線引きしたほうがいいんじゃないか」と思い込んでいたから。
だけど、それは人見知りの単なる言い訳だったと気づきました。

否定的な声がお店を閉じるきっかけになったかもしれない…そう思うと、お店への想いを伝えなかったことが悔やまれて仕方ないです。

言葉のナイフは、たった一人が向けたものであっても、人の心を容易に傷つけます。
とくに個人や少人数で経営しているお店は、何にも守ってもらえず丸腰のまま、言葉のナイフを突きつけられることが多いと思います。
でも、お客さんが応援や感謝を一つでも多く届ければ、「もう少しやってみようか」と思える瞬間が増えるかもしれない。
そうして、まるで丈夫なカゴを編むようにその瞬間を積み重ねて、お店を続けていってくれたら…そう願わずにはいられません。

どの店舗に行っても同じ品質で提供されるチェーン店も、安心感があっていいけれど。
私は、店主さんが自分のこだわりを貫いていて、どことも似ていない個人店を愛しています。

多様性を失ってしまったら、この世界はどんなに味気なく、息苦しいものになるでしょうか。
唯一無二のお店にたくさん出会えてきたからこそ、私の心の花は枯れずに済んでいるのです。

自分を生き延びさせてくれた、かけがえのないお店たち。
商品やサービスに支払う金額以上のものを、いつも惜しみなく私に与えてくれます。

そんなお店に、先の見えないこの時代を生き抜いてもらうために、お客である私もできることをしたい。
大切な場所を守る責任は、自分にもあると思うから。

給付金は、自分が心から応援したい、そして感謝を伝えたいお店のために使おうと心に決めていました。
真っ先に思い浮かんだのは、大阪のCornell(コーネル)。

私たち夫婦が「関西に来て良かった」「私たち、めちゃくちゃ幸せな人生を歩んでるよね」と思えるきっかけをくれたお店です。

女性がたった一人で切り盛りしているのに、行くたびにメニューがガラッと変わっていて、感動がアップデートされていくのが本当にすごい。

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カツオと島らっきょ、あさかぜきゅうりのピリ辛和え
イサキとサルサヴェルデ、水ナスのサラダ
シラサエビとパクチー、雑穀の揚げ春巻き

メニューの黒板を見るだけで想像力をかきたてられ、ヨダレが止まらなくなるのです。

肩ひじ張らずに、自然体で新しいメニューを生み出し続ける店主さんは、料理の神様に愛されているなとつくづく思います。

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もしもCornellがなくなってしまったら、私たち夫婦は生きていく力の半分以上を失うと思います。
大げさではなく。

だから、長い長い自粛期間中は「どうにか持ちこたえてほしい」と毎日祈っていました。
ようやく自粛が明けてイートインの予約ができたときは本当に嬉しくて、夫婦で手を取り合ってクルクルと踊ったほどです。

Cornellの予約の日、私はInstagramで知り合った花屋さんに、初めて花束を注文しました。

「イートインの営業再開、おめでとうございます。私たち夫婦の再訪もおめでとう!」
「Cornellを続けてくださってありがとうございます」
「これからもずっと通わせてください」

たくさんの想いを込めた何かを手渡したいと考え、Cornellと同じように女性一人で切り盛りしている花屋さんに頼もうと思いついたのです。

本当は、少しでも経営の足しにしてもらいたくて、お金を渡せたら…とも思いました。
ただ、私たちはCornellに何度も通っていたけれど、持ち前の人見知りを発揮して、店主さんと親密に話したことはありませんでした。
だから、急にお金を渡してもびっくりさせてしまうかもしれない。心の負担になってしまうかもしれない。

でもきっと、お花なら受け取ってくれるよね…そう信じ、「大げさにならないような、さりげない花束をお願いします」とオーダーしました。
気取らずサバサバしている店主さんに合うよう、ナチュラルに、ラッピングもシンプルに。

そうしたら、イメージ以上に素敵な花束を作ってもらえて…!!

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「うん、これは絶対に喜んでもらえるね」とニマニマしながら夫とCornellに向かいました。

でも、いざお店に入るときがきて、信じられないくらい緊張。
片思いの人に告白する直前のように、心臓のバクバクが止まりませんでした。
そりゃそうだよね。私たち夫婦にとって、大切なお店との関係がちょっぴり深まる一歩なのだから。

あまりに緊張していて、店主さんになんて言いながら花束を渡したのか、実はよく覚えていません(たくさん伝えたいことがあったのに!)
「久しぶりに来られて本当に嬉しいので、お祝いに…」
そんなセリフだったと思います。

そうしたら、いつもクールな店主さんがこう言ってくれたのです。

わぁ〜、いただいていいんですか?本当にきれい!
実は私、あした誕生日なんです!

ちょ…た、誕生日…?!
そんな奇跡みたいなことってある?!
二重にも三重にもおめでたいよ!!

なにより、花のツボミがふわっと開くように、優しく笑ってもらえたのが本当に嬉しかった。
たぶん、きっと、店主さんと私たち夫婦の心がぐっと近づいた瞬間だったと思います。

帰りぎわ、店主さんと「お誕生日おめでとうございます」「本当にありがとうございます」と再び笑い合い、私たちはお店を出ました。

「店主さんに贈ったつもりが、また幸せをもらってしまったね」と話す夜道。
見慣れたマンションやビルのオレンジ色の灯りが、いつもより柔らかく、優しくて、勇気を出して良かったねと祝福されているような気がしました。

大好きなお店を私なりに支えるために。
「言葉」と「言葉以外のもの」の両方を渡せるようになろうと誓った夜でした。

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小野 ぽのこ
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