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アートとキャパシティー

とある美術館で、とある絵に僕は見とれていた。

薄暗い部屋の壁にいくつもの絵画が並んでいる。その中でも異彩を放っている絵に。

その絵は何とも言えない雑なタッチで、アートに興味がない人からするとただの落書きにしか見えないだろう。

それでも僕はその絵に引き込まれていく。

この絵はどんな人が何のために、どうやって描いたのだろうか?どうしてこのタッチで、どうしてこの絵が有名になって、作者はどんな想いで・・・

答えのない問いに際限がない。思考の真相へと潜り込もうとしていた僕はふと我に返る。できればこのまま、ずっと考えていたかったがそうもいかない。

「早く行こうぜ」

いきなり声を掛けられ、体がビクッと反応する。

横から美術館ではマナー違反ともいえる大きな声を発したのは友人の亮太だった。

しかし、亮太の声はもっと非常識な周りのガヤに押しつぶされ、注目の的になることもない。

周りには制服姿の若者が撮影禁止のはずの館内で自撮りやダンスをしている。


僕はこの人間たちと同じ高校に通っていることを激しく恥じた。



僕たちは高校の修学旅行で美術館を訪れていたのだった。

ほとんどの高校生は、アートに興味なんかなくて、自由行動が始まって5分で大騒ぎ。他のお客さんの迷惑となっている。

ちらほら違う制服の人間も見えるが、態度に大きな差は無いように見え、思わず

「どこも同じか・・・」

と呟いてしまった。


一方、教師たちは何をしているかというと、教師たちもまた、アートに興味がなく日中は40度近いこの季節に、外の駐車場に待機しているとのことだった。

僕は普段からアートが好きでよく美術館にはいくのだが、こんなに騒がしい美術館は初めての体験だ。僕は幸い友人は多い方だったが、根暗な僕は注意することもできなかった。

騒ぐクラスメイトに、アートに関心がない友達。

いつもは楽しくて仕方ない場所のはずなのに、まったく楽しくなかった。

周りの友人たちは早く出ようと急かしてくるので仕方なくその場を出た。

僕たち一行は次の観光スポットに向かうためにバスに乗り込んでいた。

窓に映る景色は全く見慣れないもので、遠くに来ているんだなと実感させる。

その時、バスがトンネルに入り自分の顔が目の前に映る。

そこに映し出された自分の顔はひどく疲弊していて、必死の形相に見えた。

気づいてしまったのだ。

自分はキャパシティ小さい。一つの事にしか集中できないという事に。

美術館では周りの人間に対しての関心を強く持ちすぎて、作品へ意識を向けられなかったのだ。

僕は気づけた。

自分のキャパシティが小さく、他人がいると自分の幸福を望めないことに。

僕は僕のことだけで限界だったのだ。



だからもう僕は他人とかかわるのをやめた。

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