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論理=思考の形態解剖。
序説:
論理的思考とは、しばしば冷静な分析と正確な結論を追求するプロセスとして理解される。
しかし、実際には論理的思考には個人的な感情や志向性、さらには思考の伝達方法が密接に関与している。
その中で生じる独特の緊張感が論理を際立たせるのだ。
ここでは、論理的思考を理解するための2つの軸《通時性-共時性》と《事前性-事後性》について考察し、その動的発展を分析する。
a.通時性と共時性。
まず、通時性と共時性という概念に注目しよう。
通時性とは、個人が時間をかけて蓄積する思考や志向性を指す。
これはベルクソンが「持続」として語った時間の流れを意識したプロセスに近い【ベルクソン 1911】。
たとえば、ある問題に対して長期間にわたり熟考し、その結果として得られる深まりがこれに該当する。
一方、共時性とは、他者との間で瞬間的に共有される思考や表現を指す。
ソシュールが言語学における「共時態」として示したように、ここでは時間軸に沿わない形での思考の同時的共有が強調される【ソシュール 1916】。
つまり、個人が時間をかけて形成した通時的な思考を、瞬間的に他者へ伝達する際に生じるのが共時的な論理である。
この二つの軸が対話や論議において相互に作用することで、思考には緊張感が生まれる。
例えば、長い間内面で熟考されたアイデアを一瞬で他者に説明し理解してもらう必要がある場合、通時性(個人の思考)と共時性(他者への伝達)がぶつかり合い、論理の輪郭が強調されるのだ。
この相互作用は、ハーバーマスが「コミュニケーション行為理論」で言及したように、相互理解を目指す論理的対話において不可欠な要素である【ハーバーマス 1981】。
b.事前性と事後性。
次に、事前性と事後性というもう一つの軸について考えてみよう。
事前性とは、ある出来事が起きる前の状態を前提にした論理的思考を指す。
つまり、未来を予測し、不確定な要素の中で推論や意思決定を行うプロセスだ。
事前性は、可能性に基づく推論であり、ここでは推論者のポテンシャルと運が論理に影響を与える。
この論理の性質を「論理-投機図式」と呼ぶことができる。
一方、事後性は、出来事が既に起きた後の状態を基に評価される論理的思考を指す。
ここでは、過去の事象を解釈し、その解釈が固定化されやすい特徴がある。
この特性は、フーコーが論じた「権力と知識」の関係と深く関連しており、既成の知識体系が出来事の解釈を固定化するメカニズムと捉えることができる【フーコー 1977】。
事後性における論理は、すでに評価が下された結果に基づくため、論理-権力図式と呼ぶことがふさわしいだろう。
しかし、デリダが提唱した「脱構築的な態度」を取ることで、柔軟で開かれた議論が可能である。
一方で、事前に言説を行う側は、自分の考えに夢中になるあまり、事後評価者の立場を無視しがちになる。
つまり、事後評価者が事前言説者を評価するとき、固定化された論理に頼りすぎると一方的になりがちになってしまう。
ここで大切なのは、相手の立場を理解し、論理を共感的に形成することだ。
c.動的論理の発展と分裂分析。
これらの2つの軸《通時性-共時性》と《事前性-事後性》を組み合わせることで、論理的思考をより深く理解できる。
しかし、論理は単なる静的な形式ではなく、動的に発展するものである。
時間が進むにつれて、評価された論理形式は変化し、再構築されていく。
このプロセスをさらに深めると、フェリックス・ガタリの『分裂分析』に通じる考え方が見えてくる【ガタリ 1972】。
ガタリは、思考や論理が固定的であることに抗し、思考が常に流動し、分裂的に発展していくことを強調している。
この観点から見ると、論理的思考は時間とともに進化し、蓄積される知識や身体的直感によって変容していく。
つまり、論理は個々人の経験や状況によって絶えず変化する動的なプロセスであり、それが論理的思考を豊かにする要素となる。
d.結論。
論理的思考は、単に正確な結論を導き出すための手段ではなく、通時性と共時性、事前性と事後性という複雑な要素の相互作用によって形作られるものである。
そして、その思考は時間とともに変化し、動的に発展していく。
ガタリの理論が示すように、論理は固定化されたものではなく、絶えず分裂し再構築されるプロセスである。
これらの視点を通じて、論理的思考の本質をより深く理解することができるだろう。
e.引用文献:
• ベルクソン, H. (1911). 『創造的進化』. 白水社.
• ソシュール, F. (1916). 『一般言語学講義』. 岩波書店.
• ハーバーマス, J. (1981). 『コミュニケーション行為の理論』. 岩波書店.
• フーコー, M. (1977). 『監獄の誕生』. 新曜社.
• ガタリ, F. (1972). 『分裂分析的地図』. 法政大学出版局.