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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.5‐②

~晩夏のスキーヤー@ハロウィーン前の神戸~

Vol.5-②

 ライヴハウスの店内は、既に後片付けが始まっている。
 缶ビールでひと息ついているナカサンのもとへ私は寄って行き、声をかける。
「今日のLIVE、ホントに楽しかった。ありがと」
 ステージ傍のテーブルに向かい、スツールに腰かけているナカサン。爽快な笑顔を見せ、こちらこそ、と応えた。

「京都の時より、好かったよ❓」
「ホントに❓俺もそう思った」

 ナカサンはスツールを勧めながら、続ける。
「あの夜は世話になったね。俺最近の北山の方って知らなくってさ、バンドのメンバーも楽しんでたみたいだよ」
「ホント❓良かった」

 出入り口近くで待っている友達を振り返り、私は合図してからスツールに戻る。
「あの夜一緒に居たケイコの行きつけの店らしいの。閉店まで居たもんねぇ。明け方4時を廻ってたから、昨日仕事中にウトウトしかけちゃった」
 
私は肩をすくめて見せた。ナカサンも微笑んでいる。

「そう言えばナカサン。最近グラサンかけはらへんの❓」
「おう。気取ってる必要なくなったからね」

 不意に話題を換えられてても、ナカサンの口調は相変わらず。いつも淡々と明確に答えがすかさず返って来る。
 彼の引き出しの中には、ありとあらゆるコダワリがひしめいているのだろう。それでいて窮屈そうでないのは、35歳に成った今でも独身でいる事で伺える。
 私はニッコリして尋ねる。
「着てるモノまで気取らなくなっちゃった❓」
 今夜のナカサンは黒いポロシャツに、グレーの綿ギャバ・パンツというスタイル。
「俺、ガキンチョの頃から〈ブルックス・ブラザーズ〉だの〈オックスフォード〉だのみたいなのばっか着せられててサ。リーバイス履くように成ったのって東京出てからだよ。一万円でお釣りの出るパンツなんて信用できないとこあってサァ」
 他人が言うと嫌味に聴こえるセリフも、ナカサンは当たり前のように言ってのけ、納得させてしまう。
 彼の綿ギャバのパンツも、私がウィンドウ・ショッピングで眼を付けていた服を迷いに迷って購入するようなブテイックで、彼の仕事の空き時間にフラッと衝動買いした何枚かの内の1着なのだろう。

「俺、今〈adidas〉に凝ってるんだよ」
 仕事柄、私はそういうスポーツブランドには目が速い。ナカサンが着ているポロシャツは、つい先日スポーツ店に卸した新商品だし、靴も黒いサッカー・シューズ。
「そのシューズ、『セルジオSP』でしょ❓」
「おう。具合良くって疲れないよ」

 彼は私の足元を指差して、それは❓と訊いた。

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