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長編小説「ひだまり~追憶の章~」Vol.3-①

割引あり

~真夏のスキーヤー@祇園祭を過ぎた京都~

Vol.3-①

 また、あの夢を見た。
 今度は、弘也の腕の中にいる私を、彼が手招きした。

 覚えがあるのに誰だか知らないその彼は『おいで』と言った。私は戸惑いながらじっと見つめていた。弘也の腕を振りほどき一歩だけ近づくと、彼は片手で、こっちへ来いと合図し、笑顔でまた去って行った。
 そこで、目が覚めた。

 クッションの上で胡坐をかいて座り込み、考え事をする姿勢になって、正面の〈ペーター佐藤〉のカレンダーをぼんやり眺めた。
 全く変な夢だ。会った事もない人がなぜこんなに、鮮明な記憶で現れるのか。。。

 いつものようにコンポデッキのFMをセットし、オーブントースターのスウィッチを回し、冷蔵庫からジャムとミルクと山切りパンを取って来た。温まったトースターにパンを入れ、再びキッチンに向かう。フライパンを温め、スクランブル・エッグとカリカリ・ベーコンを作る。レタスとそれらをプラスティックトレイに盛り付け、ガラステーブルに戻った。バターを忘れたと気づいて立ち上がった時、FMがジャクソン・ブラウンを流し始めた。

 朝から珍しい。この曲何だっけ❓、、、思い出せない。

バターを塗ったパンにジャムをひと塊落とした時、DJがジャクソン・ブラウンの『That Girl Good Things』だと告げた。

 そうか。『Hold Out』の次の曲やったな。。。

 確かめようとして、CDラックに目を向けた。発売日順に秩序良く納まっている中で、1本分の隙間。歯が抜けた様に際立っていた。
『孤独なランナー』の次がポッカリ空いて『愛の使者』になっている。

 あ、、、『Hold Out』を弘也はまだ、返してくれてない。。。

 もう逢わなくなってから、半年以上に成るのか。。。
 別れたと云えるのか❓いや本当に恋人同士だったと言えるのか❓恋人って、、、どんな形を云うのだろう。それじゃあ、あの夢は、何❓

 気がつくと、プラスティックトレイの朝食を、知らないうちに平らげていた。いつの頃からか、無心に食事を楽しむ事が稀になり、〈ながら食事〉を始めた。そのくせ栄養バランス揃えていないと、気が済まない。
 独り暮らし7年の成るべくして身に着いた、食事の習慣。

 今日は朝食を完食出来た事だけ満足して、デジタル時計を視た。
 午前9時2分。会社に遅刻しない時刻の電車に乗り込むには、急いでシャワーを浴びて身支度をしなければ。

 変な夢を見ようが失恋しようが、明日はやって来るし、仕事は待っているし、生活しなくてはならない。学生時代のように、昼頃起きてコーヒー流し込み、ノロノロと居眠りをしに授業に行くのとは訳が違う。
 デッキのダイヤルをFMからCDにセットし直し、ギルバート・オサリバンの『Alone Again Naturaly』の入ったCDを流す。
 
 ~やっぱり、独りぼっち再び~っかぁ。。。

 鏡に向かいながら、呟いた。

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