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【エッセイ】グァバ

「キャンプファイヤーで焼いたマシュマロ」

「餅つき大会で作ったきなこもち」

「夏祭りで食べた焼きそば」

そんな子供の頃の記憶、誰だってあるだろう。


今日、成城石井でお酒を買おうとしたところ、グァバジュースを見つけた。それを手に取ると、忘れていた記憶が蘇った。

私の母は非常に倹約家だ。私と兄は学費にお金をかけてもらえる代わりに、ゲームや甘い物などの贅沢品は、あまり買ってもらえなかった。

本を読むのが大好きで、お菓子を食べたいという欲も友達の家で解消していた(あまりに食べるものだから、私が友達のおうちに遊びに行くとお菓子の袋を隠されるようになった)私は、あんまり物欲が無かったのだが、数少ない欲しかったものの中でも特に覚えているものがある。

母についていったある日の買い物、飲み物が売っているコーナーに聞き覚えの無い言葉が書いてあった。


「グァバ」


ピンク色の紙パックのそれには、そう書かれている。明らかに異質なそれは、どうやら飲み物らしい。フルーツの名前なのか、それとも何かが混ぜられているのか、どこの国のものなのか。

何もわからない。知りたい!

そう思った私は必死で駄々をこねた。しかし、先ほども言ったように母は倹約家。ジュースにしてはかなり高価なグァバなんか、買ってくれるわけもない。私はただ指を咥えて想像するしかなかった。


そんな私に、初グァバは突然訪れる。

小学3年生の夏休み、私は兄の受験のため祖父母の家に一か月ほど預けられた。祖父母の家では、昔懐かしいカートゥーンネットワークを見たり、祖父母の家の畑仕事を手伝ったり、勉強したり、本を読んだり。祖父に連れられて海釣りをしたりもした。本当に楽しい毎日だ。勉強に厳しい両親からそこまで長期間離れるのは初めてで、東京都は違う田舎の暮らしの全てが新鮮だった。

そんなある夜、ニコニコした祖母により、見覚えのないピンク色のジュースがコップに注がれる。

ペロリと舐めてみると、不思議な味。甘い。何かのフルーツだろうか。

「グァバジュースだよ」

「!!!!」

驚いてもう一口のんだ。なんと!これがグァバ!

目を丸くしてジュースを飲んでいる私に、嬉しそうに祖母は言った。「〇〇さん(母の名前)が、△△(私の名前)が飲みたいって言ってたって言うもんだから、買ってきたんだわ」

あんまり飲むといけないから、とコップ一杯でおしまいになってしまったが、毎日夜ご飯になるとグァバジュースがでてきた。祖父母の家という非日常。その中で飲む、未知の飲み物。という経験は私にとってかなりキラキラしたものだった。


成城石井でグァバジュースを手にした私は、祖父母の家での生活を思い出した。

味を確かめたい気持ちはある。しかし、きっと、記憶の中で美化されすぎているから。思い出を大切にしたいから。

私はグァバジュースをそっと棚に戻した。




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