見出し画像

三田「ゼロワンカレー A.o.D」、南インドの風にするりと侵入された夜

ぼくの人生において一ミリも関係のない土地、港区。

そこにカレーの名店があると聞き、都内に出たついでに寄ってみることにした。

意気揚々と出かけたはいいが、駅から道に迷ってしまい、とんでもない都心の中をとぼとぼウロウロ歩くことになってしまった。
まったく土地勘がない場所であったし、ギラギラした人がたくさん歩いているし、Loopは爆走しているしでメンタル的にかなり疲れてしまった。

象とかが参列するパレードをするのか?というくらい広い横断歩道を渡ると、目的の「ゼロワンカレー A.o.D」が見えてきた。
かわいい水色の看板に、これまた全く読めない文字が書かれていた。
慣れない都会の雰囲気ともあいまって、軽い海外旅行気分だ。

重い扉を押し開き、カウンター席に通される。
店内はそこまで混雑しておらず、ゆとりがあった。空間が広く、開放的な雰囲気。天井も高めだ。

カウンター席もぼくをいれて他にはおじさん一人。広々使えた。隣の人と距離が近いカウンター席は嫌なので、自分のスペースが確保できた時点でかなり嬉しかった。
ステンレススチールというか、金属のヒヤッとしたテーブルも好みだ。

お店の人がメニューの説明をしてくれる。
南インドのミールスという形式のご飯で、ざっくり言うと米と野菜やらカレーやらを一緒に食べることを指すらしい。インド風の定食と言ったところか。
ゼロワンカレーはカレーの数、種類、ライスの種類を選ぶことができる。

カレーの種類は2種類から選べた。2種類でもいいかもと思ったが、3種類より上を選ぶと追加料金のかかるカレーが無料で選べる。
むむ…。モイリーという魚介のカレーが食べてみたかったのだけど、それは追加料金がかかるのだ。
魔法の言葉「せっかく来たんだし」を発動させ、結局3種のカレーをオーダー。
「季節野菜のベジマサラ」「ケララマトンステュー」「本日の魚介カレー」を選択した。ライスはレモンライスを。

手作りポップ大好き…

ここでお冷を一口飲む。

店内にはインド風のインテリアがたくさんあり、異国情緒あふれる感じた。
先程まで都会の雰囲気に気圧されていたが、この店に入り、どのカレーにしようか悩んでいる内に少し気持ちが落ち着いてきていた。

異国感があるというのに、不思議と落ち着く。なぜだろう?音楽がうるさくないから?香りがインド系のお店特有のエスニック感がないから?静かなお客さんが多いから?
とにかく、空間が自分にフィットしていく感覚がした。


カレーが運ばれてきた。

大きいお盆にカレーとライス類がのせられ、目の前に置かれた。
その大きさと乗っている料理の多さから、「とんでもないご馳走になっちゃった…!」と思った。テンションがガンガン上がるのを感じる。

まずはカレーをそれぞれ少しずつ食べてみる。この時点ですべてが美味しくてびっくりした。
辛すぎることや、強烈なスパイス感を想像していたが、思ったよりも食べやすい。そのおかげでカレーそれぞれの素材や、奥深い味みたいなものが、ストレートに感じられた。
辛さとスパイスでよくわからん…みたいにならないのだ。

写真向かって右の魚介カレーことモイリーはこの日、ハマチを使っていると聞いた。
ふわふわで臭みもなく、非常に美味だった。カレーに魚が入っていてもありなんだなと思った。

真ん中のマトンステューはメニュー上は「辛い」の表示がされていたが、食べやすかった。マトンがしっかりとした歯ごたえがありつつ、脂の甘みもばっちり出ていた。ピリッとした感じがいい。

左のベジカレーは甘め。野菜の旨味が出ていて優しい味だった。うましうまし。

ライスにはダールという甘めのカレーがあらかじめかかっていて、それも優しい味で美味しかった。
周りの野菜類も大変おいしい。そのままでも美味しいが、カレーと合わせて食べることでさっぱり感を追加する役割を果たし、スプーンがどんどん進む。

一通り料理を楽しみ、当たり前にご飯が足りなくなった。
ライスはおかわり自由とのことだったので、ありがたくいただく。
残りのカレーを見て、強気に「大盛りで」とお願いした。
旅はいつだって人の気を大きくさせる。

大盛りのレモンライスがきれいに運ばれてきた。
思わず笑みがこぼれる。

ここらへんから終盤にかけて、カレー同士を混ぜ合わせるフェーズに以降する。

これまでの経験から、インド系(我ながら雑なくくりだ)のカレーは混ぜれば混ぜるほど美味しいという方程式があった。
調べてみると野菜のカレーは混ぜる混ぜないといった流儀があるらしいが、このときのぼくは付け合せの野菜から何から少しずつ混ぜて、味の組み合わせを楽しんでいた。ハッピー野郎だ。たぶんちょっと微笑んでいたとも思う。

混ぜながら食べるカレーは最高だった。
あらゆる食材が一口の中で渾然一体となり、口に運ぶたびにその触感にハッとさせられる。
マトンの味がしたとおもったら、人参のコリッとした食感があり、後ろからスパイスの風味が駆け抜ける、といった具合だ。

おいしいおいしい、と思いながら食べ進める。もう先ほどの疲労感はどこかへ消えてしまった。カレーを楽しむ、味わうことで頭がいっぱいだった。
決して強烈ではないスパイスが、じんわりと体を温め、疲れや雑念を取り払ってくれている気がした。

「カレーは宇宙だ」と誰かが言っていたのを聞いたことがある。
大げさすぎるwと茶化した感情を抱いていたが、あながち間違いでもないのかもしれない。
少なくとも行ったことのない、遠い異国、インドの風のようなものが体を通り過ぎていくように感じた。しかもさりげなく、するりと入ってきた。
そして、その後には凪のように体が整っていく感覚が残った。


思いの外食べすぎてしまい、膨れ上がったお腹をかかえて店の外に出る。
少し歩くと東京タワーが思いの外大きく見えた。ここは東京なんだ、と再確認する。
これから電車に乗って帰らねばならないのが辛い。

でもまた一つ、心地の良い場所を見つけることができた。
ホクホクした気分で今日食べたカレーを一つずつ思い出しながら、家に帰った。






いいなと思ったら応援しよう!