ひとり外食で、己の心身を鍛えよ【試練1】
私は一人での外食が苦手です。
その理由はたくさんありますが、幼少期から外食をした経験が少ない(というかほとんど無い)というのが決定的な理由ではないかと感じております。
私の実家はベッドタウンの田舎町で、自宅の近くには住宅と大きな墓園しかなく、飲食店の存在は皆無でした。
また、断崖絶壁の謎めいた土壌へ、磁石でぴたっと貼り付けたように自宅が建っており、どこもかしこも坂・坂・坂。
外出するのも一苦労という感じでした。
ベッドタウンの田舎町だというのに、駐車場を備えていなかったため、自動車を所持しておらず、どこへいくのも自転車だったので、足腰だけは強靭に育ちました。
食事といえば、母の手料理をはじめ、スーパーのお惣菜やインスタント食品が中心で、今思い返しても家族で外食をした記憶がほとんどありません。
「こんな辺鄙な場所まで、宅配の方に申し訳がないからねえ…」という理由で、宅配ピザも滅多に取ってもらうことができない環境でありました。
こうした環境下で長年過ごしてきたため、成人し、りっぱな中年期になった現在も外食が苦手な体質で、その理由はいくつもあります。
・扉をあけて、入店する時点で緊張する
・手をあげて注文したとき、緊張で声が届かなくて、店員さんに気づいてもらえないのではないかという不安で緊張する、そもそも、手をあげることに緊張する
・他人の視線を感じながらの食事に緊張する
・終始、食事のマナーをチェックされているのではないか?という緊張感に耐えられるのだろうか
・お料理を全部食べ切れなかったらどうしよう、残してしまうことが不安で緊張する
・めちゃくちゃ汗かき体質なので、汗をぬぐいながら食事をするという行動が心底恥ずかしい、そして食事中に何度も汗を拭って周囲の人に不快に思われるのではないかと思って緊張する
などなど、知らない人があちらこちらにいるという空間で食事をするのは、なんと険しいのだろうかと(被害妄想もたっぷり入っておりますが)感じているのです。
そんな被害妄想がひどく、勝手に緊張して消極的になってしまう、小心者の私ですが、今年に入ってから「ひとり外食」をはじめるようになりました。
というのも、私は今、断崖絶壁に位置する実家を離れ、関西のとある都会に住んでおります。
部屋から駅まで徒歩5分という素晴らしくアクティブなエリアで暮らしており、近所にはSNSやグルメサイトでも有名なお店が多数点在しています。
「そんな環境で暮らしているのに、全く外食しないって、もったいないのでは?」
ある日突然、ひとり外食スイッチが入ったのです。
というのも、某SNSにて、ふっさふさの紫蘇がたっぷりかかったスパゲッティを見かけて、なにがなんでも、どうしても食べたくなってしまったのです。
それはもう、ムック(ひらけポンキッキの赤い雪男)の毛並みくらいふっさふさで、これまでに見たことのない斬新なビジュアルで、シェフが丁寧に切り刻んだふっさふさの紫蘇を食べたい…!!!どうしても食べたい!!!!という猛烈な欲望が全身にみなぎりました。
そして私は、勇気を振り絞り、京都某所にある老舗のスパゲッティ専門店へと足を運びました。
「開店と同時に入店すれば、店内には人がいないし、周囲の目が気にならないのではないか!」
ということで、開店の10分前にお店を訪れたのですが、すでに2組の方が並ばれていて軽いパニック状態に…。
正直言ってこの時点で、「やっぱり外食なんて無理だ、こんなに頑張って並んで、緊張して、いいこと無いだろう、帰りたい…」という気持ちが駆け巡りました。
しかし、ふっさふさの紫蘇がたっぷりかかったムック(ひらけポンキッキの赤い雪男)の毛並みのようなスパゲッティを食べるために、腹を括ってここまで来たのだから、後には引けません、私は再び腹を括り直しました(腹を括りすぎた結果緊張で腹痛に襲われましたが…)。
ということで、ドキドキしながら、腹を痛めながら、汗をかきながら、一人で列に並び、開店の時間を待ちました。
11時、ついにオープン。
スタッフさんと思われるマダムが扉を開け、前に並んでいる二人組の方が次々に入店、私もいざ!と入ろうとしましたが、一旦扉を閉められてかなり焦りました。。
おそらく存在感が無さすぎて、気づいてもらえなかったものと思います。
滝汗をかき、小さく震えながら、改めて扉を開け「あの、一名です…。」とマダムに伝えてようやく入店。
季節は3月半ばでしたが、緊張で汗が止まらなくなりました。
ただ、事前にメニューはチェックしていたため、注文は落ち着いてできたので、ホッとしました。
そう、私が注文したのはふっさふさの紫蘇がたっぷり乗った、ムック(ひらけポンキッキの赤い雪男)の毛並みのようなスパゲッティ。
ついに登場です!わああaaAAAAああああアあああアアア!!!!!!!!と心の中で絶叫・歓喜しました。
ところどころ、緊張と滝汗の処理で記憶が抜けていますが、私は憧れの緑のムック・ふっさふさスパゲッティを注文することができたのです。
料理を撮影するのはなんだか、緊張するというか、恥ずかしいというか、他人の視線を感じるのであまりやりたくなかったのですが、記念すべきひとり外食!ということで、勇気を振り絞って撮影しました。
ピントがずれており、構図も最悪な一枚ですが、一生心に残り続ける、一人外食のお料理となりました。
ふっさふさの紫蘇は香りも食感もよく、明太子とベーコンのしょっぱさに上品に絡んで、涙が出るほど美味しかったです。
そういえば、余談ですが、食事が届くのを待っている間、何気なくお店のことを調べてみたら(お店の場所と食べたいメニューのことしか調べていなかったので)、口コミ評価にかなり辛辣なコメントが多数書き込まれていて驚きました。
「接客がよくない」「愛想がない」「対応が冷たい」という書き込みがいくつもありましたが、私は全くそんなふうには感じませんでした。
ベジータさん(ドラゴンボール)と岡星さん(美味しんぼ)がフュージョンした、クールで鮮やかな品格が有る、無駄のない、美しい接客だなと感じました。
「おめぇ、つよくてかっけぇなあ!オラ、わくわくすっぞ!」by悟空、という感じです。
人の気配や感情、気配りというのは、受け取り方が人それぞれなので、あまり口コミを気にしすぎたり、意識しすぎるのはよくないですね。
この日が「ひとり外食」の第一歩となりました。
プロの作ったお料理を食べることができる感動。
食事をした後、自分で洗い物をせずに、食事の余韻にゆったりと浸ることのできる贅沢…。
これが、外食の魅力なのかと、胸が熱くなりました。
こうしたひとつの経験で私の心身は鍛えられ、これまで瀕死状態で復活が絶望的だった五感が、みるみる息を吹き返しました。
そんなわけで、初めてのひとり外食で少々自信がついた私ですが、次に訪れるお店で新たなる試練を体験するのでした。
【続】
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