「誰もが、昨日から見た対岸で目覚める可能性がある」日々の中で
最後の1行をはやく読みたい気持ちと、物語が終わってしまうことが惜しくてゆっくり読みたい気持ちと…面白い小説を読んだとき、残りのページが少なるとこんな相反する感情が現れる。
朝井リョウさんが作家生活10周年を記念して書き下ろした新刊「正欲」もまさにそう。
読み終えて、朝井さんと同じ時代に生きていてよかった…と思った。あぁ、すごい本を読んでしまった。
多様性という言葉は、懐が深くて好きで、よく遣っていた。
でも、読みながら、何でも包み込むその言葉によって私はいろんなものを覆い隠してしまってもいたんだなぁ、と気づいた。
人生のふとした瞬間に感じてきた違和感や孤独感、居心地の悪さ…登場人物たちのそれに触れるたび、「あ、それ私も知ってる…」と思い出すように感じた。それでも、小さな選択を繰り返しながら、きっと私は彼らの対岸にいた。
作中で「網を編む」と表現される、誰かに知られたら笑われてしまうようなことを共有できることの奇跡に胸を打たれた。
ーー自分とは違う人が生きやすくなる世界とはつまり、明日の自分が生きやすくなる世界でもあるのに。ーー
読み終えて、終盤に出てくるこの一文がふと頭をよぎった。
ニュースのコメント欄やTwitterで、正論や常識然とした言葉を見るたびに感じていたもやもやが、この言葉に吸い寄せられるように。
いい作品に触れると、すでにそこにあったのに見えていなかったものが、見えてくる。
この本を読んだら、見えていないことがあることに自覚的になった。どれだけ想像しても偏っているんだ、と。
あぁ、本当に読んでよかった…。
#正欲 #朝井リョウ #読書
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