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肥薩線とくま川鉄道、鉄路再開への道#3

3、壊滅的被害の肥薩線を見て

黒肥地保育園の年長さんのレールサイクル乗車を終えた後、子どもたちの昼食を見届けてから先生の車に乗せてもらい、肥薩線の線路沿いを一勝地駅にかけて向かう。当初予定していた計画は、人吉駅でレンタルサイクルを借りその足で渡まで向かうことにしていたのだったが、先生方の配慮によって引き続いて車に乗せて頂けることになり、折角の折ということで区間を伸ばすことになったのである。

肥薩線はくま鉄の状況以上に深刻で人吉から吉松に向かうループ区間でも被害の生々しさを物語っていた。

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肥薩線の山側区間は人吉から大畑に向かう途中、球磨川を横切っていくのだが、その橋梁の一部が水圧によって変形をしているのが伺える。まだこのレベルでは線路や橋梁に大きな歪みがないので修理は可能であるが、問題は人吉から八代にかけての川沿いを走る区間である。

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人吉市内は多くの住宅やホテルなどの商業施設が豪雨によって水浸しになり、その嵩は人の背丈をはるかに超えていたそうである。写真は国宝青井阿蘇神社の禊橋(みそぎばし)であるが、欄干のほとんどが流失をしていて修理をされずにそのままの状態で残っている。神社に保管されていた神刀も浸水の被害を受けて錆びついていたが、こちらは修復作業を終えて元に戻されている。禊橋の現状は、欄干の修理が追い付いていないほど、資金面も人員も逼迫している証左なのだ。

人吉駅の南側は特に市内でも被害の大きかった場所で、既に建物が解体されて更地になっていた所も多いが、解体待ちの建物や解体をされずに残されたままの建物も点在するなど、復興に向けての足取りはまだ道半ばといった状況だ。駅の西側には仮設の商店街であるモゾカタウンがオープンしていて、お店の一部はここに集約をして営業を続けている。

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モゾカタウンの様子。テーブルが多数置かれていて、飲食が可能なスペースが多く確保されている。

被害の大きかった球磨川沿いのほとんどの温泉旅館やホテルでは、1階部分の修理が継続して行われていた。実際、豪雨直後にすぐに再開できたのは、高台にあった1軒だけだったそうである。

何故豪雨被害が人吉市内以西で特に大きくなったのか? その理由であるが、気候的に線状降水帯の集中が要因の一つでもあるのだが、地形的な面として人吉駅の南側の部分が丁度、球磨川とその支流の胸川との合流点であり、水嵩が増していた球磨川に胸川で溜め込んできた水が合わさって、激流になってしまったからである。様々な要因が複合して被害が拡大してしまった結果を受けて、今後に向けての治水対策が多角的に行政で論議されているが、遊水池案が難航していることも先生から伺った。球磨川の治水は昔からの課題でもある他、豪雨との戦いの歴史でもあり、ダム一辺倒で解決する策ではないことを現地を見て感じた次第である。これは肥薩線の復旧にも繋がってくる切実な問題であるので、県レベルだけでなく国として真剣に考えて頂きたい。

車は人吉市内を西に抜けて渡駅に移動する途中、トラスの流失した橋と遭遇した。

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この橋は元々3連トラス構造の橋であったが、真ん中のトラスが流失してしまっている。生活道路でもあるため、流失した部分に仮設の橋梁をかけて暫定的に渡れるようになっていた。さらに車は西に進む。被害の状況は段々と大きくなっていくのが目に見えて明らかになっていく。

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川沿いの家々は濁流が流れ込み、そのまま野ざらしになっている家も多い。

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人吉市を抜け、球磨村に入ると、流域の田んぼはまだ復旧されていないところが多く、これらの田畑は雑草が生い茂る荒れ地のままになっていた。豪雨時に大量の土砂が流入し、土壌の整地が行われないままになっているのである。

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肥薩線の線路に程近い道路橋も、橋桁が流失した部分があって渡れなくなっている。仮設の架道橋も橋の老朽化或いは安全面から設けられていない。

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写真の部分も元々は田んぼがあった所で、豪雨後は荒地のままになっていた。

車は途中で国道219号に入り、程なくして渡駅に到着。駅舎に入りホームを見渡すと、その光景はまるで廃墟同然となっていたのである。

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渡から西は肥薩線でも特に被害の大きかった区間で、橋梁の流失や路盤の流失、変状など鉄路として原型をとどめていない箇所も多く存在し、線路の修復は「新線建設に匹敵する」という意味も容易に理解できた。

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駅舎側からホームを眺める。待合室が骨組みだけになっていた。

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信号や列車接近警報装置などの機器類も、水圧で根元からボキリと折れている。

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駅舎内部の様子。壁の泥汚れが水嵩の高さを示すとともに天井板が洪水によって押し流されている。工事時には取り壊しは不可避であろう。

被害の大きさは鉄道だけでなく道路にも及んでいる。国道219号は応急工事が完了したばかりで、現在も坂本付近は工事用車両や地元の住民など許可を得ている車両のみしか通れない。そのため、迂回路として九州自動車道の八代IC~人吉IC間の利用に限って通行料無料の特例措置が継続されている。

渡駅の様子を間近に見ると、復旧への道のりは確かに簡単な問題ではない。しかしながら復旧へ舵を取る必要があることをこの後、感じ取る機会が一勝地で訪れるのである。

<#4に続く>





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