見落としがちなパフォーマンス低下の原因
筋肉のコンディションを整えるのに、マッサージや指圧などをしてくれるお店や治療院に通っている人もいるのではないでしょうか?
筋肉を揉むと、ほぐれて柔らかくなり、疲れが取れたり、動きのパフォーマンスが向上すると思っている人が少なくないのですが、実はまったくの逆で、筋肉は揉まれると硬くなって動きのパフォーマンスは低下するのです。
何故、もみほぐすとダメなのか?
私が以前働いていたマッサージ店にも、ゴルフやテニスをした後のお客さんがたくさん訪れていました。
その中には、「もっと強く押して!」と希望される人もいるのですが、そういう人の筋肉は、決まって硬く硬直しているのです。
筋肉は、強く揉めば揉むほど硬直が強くなります。
その理由は、次の3つ。
【揉むと筋肉が硬くなる理由】
1.筋膜が破けてしまう
2.筋線維が切れてしまう
3.筋小胞体が潰れてしまう
そして、筋肉が硬くなると神経が鈍感になり、痛気持ちよさを感じるのに更に強い圧が必要になり、更に筋肉が硬直するという負のスパイラルに陥ってしまうのです。
筋膜が敗れる
筋膜とは、筋肉や骨、内臓、血管、神経などを包み込んでいる薄い膜で、全身に張り巡らされています。
コラーゲンとエラスチンで構成されており、伸縮性や可塑性(局所に負荷がかかった場合に形を変えて柔軟に対応する性質)に富んでいます。
強く揉んだり、圧を加えることで、この筋膜が破れます。
当然、損傷しても治るのですが、その修復過程で筋膜が肥厚して硬くなってしまうのです。これを線維化というのですが、最悪、筋膜同士が癒着して、スムースに動くことができなくなります。
筋線維が切れる
筋肉は筋線維という髪の毛と同じくらいの細い線維が束になってできています(この束を覆っているのが筋膜)
この筋線維は、横からの力に弱く、横方向に強い力で揉まれると切れてしまいます。
揉みほぐしを受けた翌日などに感じることのある、揉み返しや揉み起こしと呼ばれる痛みは、筋線維が断裂したことによる痛みなのです。
筋線維の修復にはカルシウムが使われます。イメージとしては、カルシウムを接着剤代わりにするのです。
筋線維の断裂が多いと、カルシウムがたくさん筋肉に送られるのですが、余ったカルシウムが筋肉に溜まり硬くなるのです。
筋小胞体が潰れてしまう
筋肉が収縮するスイッチを入れるのはカルシウムです。
そのため、筋線維の中にはカルシウムを貯槽している袋があり、この袋のことを筋小胞体と言います。
筋肉が収縮するとき筋肉小胞体からカルシウムが放出され、筋肉が収縮を止める(弛緩する)と、放出されたカルシウムは筋小胞体に戻ります。
強く揉みほぐすことで筋小胞体が損傷すると、筋線維内にカルシウムが流れ出し、筋肉が硬くなるのです。
トレーニングによる損傷との違い
筋トレによって筋肉に負荷をかけると筋線維が損傷し、適切な休息と栄養をとって修復すると、元の状態よりも強い筋肉が形成されることはご存知だと思います。
このことは間違いではないのですが、多くの人が誤解をしているのが「筋線維が損傷する」という部分についてです。
トレーナーの中には「筋肉を壊す」といった極端な表現をする人がいますが、実際には、筋肉の細胞膜の機能が損なわれたり、筋肉の表面にある細胞が少し損傷する程度で、筋肉に大きなダメージを与えるレベルではないのです。
もし、筋肉を壊すようなレベルのトレーニングをしたら、修復しきれなくなり、逆に筋肉が落ちてしまいます。
このように、トレーニングによる損傷は、強くもみほぐした時のように、筋膜や筋線維、
筋小胞体を損傷させるものではないので、それによって筋肉が硬くなることは無いのです。
一番怖いのは神経への影響
強く揉みほぐされるのが気持ちいい…という人は、揉みほぐしを受け始めた頃のことを思い出してみてください。
受け始めた頃は、軽い力で揉まれても気持ちが良かったし、揉まれているという感覚を持っていたのではないでしょうか。
それが徐々に強い力でなければ気持ちよさを感じなくなってしまった。
これは、揉まれるとことで筋肉が徐々に硬くなってきたからです。
筋肉が硬くなると、動かしづらいカラダになるのは想像できると思うのですが、本当に怖いのは、神経が受ける影響です。
硬くなった筋肉は柔軟性が低下しているので、本来であれば、動かした時に違和感や痛みを感じるはず。
ところが、脳は痛みを感じ続けると、その痛みを感じる神経を遮断して、痛みを感じるのを拒否する性質を持っています。つまり、筋肉が硬直すると、神経の働きが低下するのです。
この神経の働きの低下は、感覚神経だけではありません。
体性感覚(の深部感覚)も鈍くなるので、動きのパフォーマンスが落ちてしまうのです。
筋肉のコンディションを整えるのであれば、揉みほぐすのを止め、ストレッチや脱力系の体操を行うようにしましょう。