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"良さがバレない" さりげなく心地よい、を作る楽しさ
1px下にズラす。少し文字を大きくしてみる。やっぱり戻す。やっぱ一部だけ大きくしてみる。線を入れてみる。やっぱり消す。いや、やっぱり入れる。ちょっとだけ薄くしてみる。薄すぎるか。ちょっと戻す。いや…。
デザインという作業は、非常〜に地味なものです。
家で作業をしていたとき、モニターを覗いた夫に「そんなん、どっちでも良くない?」と言われたことがあります。(夫は異業種・異職種)
確かに、その「線1つ」にフォーカスしたら、あってもなくても劇的な変化を感じさせるものではありません。入れたり消したり、何をそんなに…?と思われるのも理解できます。
でも、この地味な調整作業の積み重ねが成果物のクオリティを左右しますねん(いきなり)。地味な調整、たとえば1pxで薄く引いた線。これは誰かに「この線が良いねぇー!」なんてわかりやすく感心されるものでもありません。
じゃあ、やっぱりどっちでも良いのでは?いえ、そんなことはありません。
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地味な作業の意義
デザインには「素敵だね!」とスポットライトを浴びやすい作業と、気付かれもしない地味なところでひっそり仕事をする作業があると思っています。
気がついてもらいやすい作業
スポットライトを浴びやすい作業のイメージのための例を1つ。
たとえば、今日立ち寄ったタリーズコーヒーのクリスマス限定メニューのポップ。クリスマスらしい配色とデザインに、心が躍りました。クリスマスの楽しさと落ち着いた大人っぽさが絶妙に両立していて、季節限定を楽しみながら本でも読みたい気分に。
(こちらページにあるデザイン▼)
デザインに注目するのは私の職業病かもしれません。しかし、「手書き風のゴールドの文字と赤色の組み合わせ、オーナメント風に背景にスターが散りばめられたデザインがクリスマスらしい雰囲気を演出している。デザインのおかげでワクワクする。」というのは、デザインに詳しくない方でもなんとなく説明はできると思います。
「線があろうと無かろうと、変わらんよ。意味ある?」と言い放った夫がイメージする "意味のあるデザイン作業"は、こうした目に見えて気分を盛り上げる、わかりやすく華やかなもののことだろうと推測します。
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地味な調整作業
一方、デザインの中でも"地味な調整作業"は、「かわいい・おしゃれ」などの情緒的な感動を生むためのものではありません。役割はシンプルで、情報を正しく伝え、見やすくすること。見る人の情報処理を助け、負担をなくすこと。それが地味作業の目的です。
たとえば、さりげなく引く線で視線を誘導したり、フォントサイズを少し調整することで情報の優先順位をつけたりする。どれも些細な調整ですが、その積み重ねが「情報処理を助けるデザイン」へのステップです。
では、実際にデザインがどう機能するのか。
たとえば、Webサイトを訪れるとき、訪問者はそこに書かれている情報を探しに行くのであって、「どんなデザインかな?」と意識しながら見ることはほとんどありません(同業者でない限りは)。
そのため、デザインが「快適に情報収集を進められる状態」を作り出していればいるほど、意識されることはありません。
逆に、見づらさや不快感があれば、一気に目立ってしまいます。余計な線が多くて見づらい、情報が冗長すぎて読む気がしない…。そんな「なんか見づらい」という状況のときに初めて、「見づらいデザインだな」と意識されてしまうもの。
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誰も気付かないからといって、どうでも良いわけではありません。
むしろ、地味な調整が良い仕事をしているほど気付かれない。それは、ストレスなく自然に情報を伝え、コンテンツに没頭させているからです。
「デザインのおかげで見やすいな」なんて言ってもらえなくても良い。それこそが地味作業の最高の結果だと思っています。
※補足
クリスマスの画像の件はわかりやすく例示しただけで、華やかで良さがわかりやすいデザインにも気付かれないような地味な調整作業はあります。だから、華やか vs 地味、みたいな対立構造ではありませんよ!
地味調整と向き合うの楽しすぎ
地味というワードを繰り返し連呼しながら語っているのは、私が携わるデザインは地味作業の重要性が高いものが多いからです。そして地味作業が好きです。
おしゃれな色も装飾も必要ない
たとえば最近関わったのは貿易関連のあるデータがひたすら載っているページでした。
表、説明文、グラフ……その繰り返し。文字は黒、背景は白、強調箇所は赤。膨大なデータを整えて見やすくレイアウトする作業です。当たり前ですが、クリスマスらしい配色やワクワクする演出は不要。世に出たとき、「このページのデザインいいね!」と言われることもないでしょう。
この作業はなの?と思う方もいそうなくらいのものですが、私はデザインだと思って取り組んでいます。
これが楽しくて。理由をもう少し掘り下げて語らせてください。
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自分が情報の意味を理解するところから
そもそも、作る側がその情報の意味を理解していなければ、情報処理を助けるデザインはできません。
情報Aと情報Bは親子関係なのか、並列なのか、優劣はあるのか。この文章は結構大事なのか、補足程度で小さく配置した方が良いのか。
不適切なデザインは情報処理の邪魔をするどころか、誤った印象操作にもなりかねません。大袈裟ですが、本当にそう思いながらやっています。
地味な調整に欠かせないデザイン以外の力
正しくわかりやすくレイアウトするにはその情報の理解が必要。だから読解力も必要ですし、わからないことを調べるリサーチ力も欠かせません。さらに、自分の力では突破できない時にはクライアントに教えてもらうためのコミュニケーション力なども問われると思います。だから、アートボードに黙々と向かってデザインしている時間は、もしかしたら最後の2割ほどで、あとは聞いたり調べたりしていることがほとんどかもしれない…
\ 楽しい /
受け取った時には「全然わからん…」と思うようなニッチな分野の情報や、専門性の高い情報を紐解きながら、質問しながら理解し、優先度を整理して組み立てていく。そして、スラスラ読める見栄えに仕上がるまでの工程は、パズルゲームのような感覚もあり、私にとって非常に楽しい時間です。
さりげなく機能する、人肌温度の仕事
デザインの役割には、わかりやすく認められるものと、気付かれずにそっと支えるものがあります。今日は特に後者について掘り下げてみました。
“さりげなく”良い仕事ほど、気付かれない。これは、デザインに限らず多くの仕事に通じる真理かもしれませんね。
だからといって気付かれる仕事がすごくない、という話ではありません。気付かれるかどうか?わかりやすく評価を受けるか?だけでは測れない価値を持つ仕事や作業って、あると思うんです。というのを共有したく!
とりわけ、“地味だけど楽しい”仕事が多い私は、目立つことなく自然に機能し、誰かが必要な情報にスムーズにたどり着けることを願って、手と頭を動かし続けたいと思います。
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もちろん、褒められれば嬉しいですけどね。褒めてください。(最後に漏れ出る承認欲求)
それでは、今日もお疲れ様でした☕️