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こうして桜は散るし、季節は過ぎていく
先生あのね。桜が散る季節です。
インタビュア&ライターのなまず美紀です。
晴れた日曜日の朝。娘(11)の用事で中目黒へ。
時間に余裕があるわけではないけれど、ネットで確認したステキなカフェへ。「せっかくだからね」が私のいつもの口癖。カフェに向かう途中で偶然、目黒川を渡る。
そういえば、ここは桜の名所だった。
桜はすでに散り始めていて、スマホを取り出して1枚撮影してみたけれど、やはり満開のときの華やかさはない。
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隣の人たちも同じようにスマホを構えたものの、「うーん、いっか」とあきらめる。
数日の誤差で、桜は「わざわざ行って観るもの」から「特に撮るほどでもないもの」に変わってしまった。
地球が回るから、いつだって何だって、数日の誤差で世界が変わってしまう。
カフェは期待以上にステキ。
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モーニングセットにはコーヒーとカフェオレしかついていないのに、スタッフのお兄さんは娘に「レモネードでもいいですよ」と。
それも桜レモネード。季節のドリンクで、モーニングにくっつけるような商品ではない。
「みんな優しいね」と言いながら、ありがたくいただく。
娘が撮った1枚は、ドリンクが中心という大胆な構図で、「グラスがキラん✨と光って嬉しい💕」とか。
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娘はこれからお勉強なのだけれど、こんなステキなカフェでやり残したテキストを開く時間ももったいなくて。
隣の夫婦のテーブルの下で、ブルドッグがふてぶてしい顔でくつろぐ姿を2人でニヤニヤ観察する。
私はこうした愛想のない犬が好きだ。時々、飼い主からトーストの耳を差し出され、すごい勢いで平らげている。
もう耳はナイんだと察した犬は、床の上にペタンコになる。伸ばした短い後ろ足の裏が天井を向いていて、肉球が丸出し。「肉球はこっちの方向に向くのか」と感動する。
そういえば今年は桜をちゃんと愛でていない。息子の入学式の帰りに通りかかった渋谷で無理矢理、桜に背景になってもらって写真を撮ったぐらい。
本当は満開の桜をバッグに、撮りたいものがあったのに。
「新宿御苑で桜を見よう」と、と声もかけてもらったのに。
目の前の雑用と雑念の処理に忙しく、目の前の人との感情に忙しく、目の前の仕事はいつだって楽しく。
わざわざ自然に心を向ける時間を作るのが面倒だった。
来年の桜の季節には、もう同じ人は声をかけてくれないと思う。
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こうして桜は散るし、季節は過ぎていく。
満開の桜を逃したのは私のせいだし、来年もまた何かに心を奪われて、散りかけた桜しか撮れないかもしれない。
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