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令和2年10月23日。
温泉本2012〜2013の間に挟まっていた「別府八湯温泉道」の「スパポート」を見つけ出した。ジップロック付きケースに丁寧に保管されていた。
「別府八湯温泉道」とは、別府八湯温泉道に加盟している温泉施設から、88カ所を巡って、「スパポート」と呼ばれる冊子にスタンプを押すスタンプラリーのことである。88カ所全て巡ったら「名人」の称号を手にすることが出来る。
私は、社会人になった年、この「別府八湯温泉道」88湯を全て巡り、温泉名人の称号を手に入れようと固く決意したのである。
平成21年8月29日、記念すべき第1湯目入湯。
ーーえ、待って待って、平成21年…、2009年?11年前……。
というわけで、正直あんま覚えてない温泉も。平成21年は威勢よく次々と入湯。
ーーこのペースなら一年以内には!
当時、社会人一年目で、早く帰れることが多く、仕事から帰って大分市内の家からわざわざ別府の温泉に出向くこともしょっちゅう。
そもそもなんで温泉巡りをしようと思ったかというと、自分なりに慣れない社会人生活に病んでいたのではないかと思う。
一日中パソコンと向かいあい、よく分からん客からの電話対応に怯える日々。社内の人たちもなんか怖い。ぜーんぶ怖い。皆嫌い。
そうだ。
ーー温泉へ行こう(*゚∀゚*)
そんな感じで始めたんじゃないかと思う。
そもそも、なんだか人生の「目標」的なものを見失いはじめていた時期なように思われる。
これまでは、受験やら就職活動やら、何かしら敷かれたレールの上に乗っかって、与えられたものをこなしていれば良かった。
ところが社会人になり、急にそのレールなるものがプツンとちぎられたように感じた。
それは私がどこかで、「就職=ゴール」という考えを持っていたせいかと思われる。
私は本当にやりたいことなんかなかった。
日本人に多いパターンだろうか。
とりあえず人が「いい」という、高校、大学、会社に所属していればいい、と思っていた。就職した会社も、業務内容に興味はなかった。
平成21年、私はどこに向かっていけばいいのだろう…。
とりあえず…
ーー温泉へ行こう(*⁰▿⁰*)
平成21年、頑張った。12月までの邁進ぶりときたら、とても自分とは思えない。
この時点で、かなり「温泉に詳しい人」になっていたと思う。研究熱心であることは間違いない自分は、温泉の泉質、効能等あらゆることを本を片手に調べた。人生でなんの役にも立ってないが、今でも少しは別府温泉についてなら語れるかもしれない。
それはさておき、28湯目、
平成22年8月24日。
ーーあ〜〜、まぁ、冬は寒かったしね。
29湯目、
平成24年1月21日。
ーー平成?24年?
こんなもんである。自身の「決意」の薄っぺらさと愚かさを知る。
平成24年8月18日を最後に、押印されることのないスタンプ。
31湯目、クリスタル温泉。
そういえば夏に1人で行ったっけ。
31/88。
この数字は、自身をよく表していると思う。
ーー半分にも満たない。
平成24年、この頃は、新たに向かわなければいけないことに直面していた。生活も変わった。
以後、私は温泉から少し遠ざかっていた。
というか、「湯屋えびす」という明礬にある温泉が自身の中の不動の1位で、別府に出向いても、そこに入って帰ることが多かったように思う。
時は経ち令和2年。
ーー令和?
まさか元号が変わっているとはね。あの頃20代だった私は35歳に。
ーー35歳?
この「別府八湯温泉名人」の他にも私は、人生においてやり残している「達成しなければいけない」ことがある。取得しなければいけない「資格」がある。
こちらは達成しなければ死活問題である。
なんとなく40歳までには…と思っていたのだが、あと5年に迫っているという現実。
濃い顔立ちと最初派手に邁進してしまう性質から、「ストイックな人」と思われがちであるが、実際はダルンダルンである。
今後、ちゃんと生きていけるか心配なレベル…。
先日、親友の荻子(仮名)との会話で、この「別府八湯温泉道」を思い出すことに。
「全部まわれば?もったいないわ〜」
ーーですよね〜。
荻子は、この31湯巡った中の半分以上を一緒について来てくれたように思う。ただ、彼女自身は温泉名人になることに興味はなく、スパポートを購入したものの、行方不明である。
何故か、私の中に蘇る「温泉名人熱」。
ーー先に資格取得だろうがよ( ゚д゚)!
と、間髪入れず、自分からのツッコミが入る。
無視である。
温泉、、、
ーーまたまわるぞ〜い\(^o^)/
別府の温泉が、私にとって現実逃避の場所であることは間違いない。特に明礬温泉の強烈な硫黄の匂いは、日常の全てをかき消してくれるような気がする。
また私は、何かから逃避しようとしている。
まぁ、ちゃんと戻ってくれば、
ーーいいんじゃなかろうか?
あの頃とは生活も激変しており、一旦無視したものの、資格取得のこともあり、残り57湯を巡るにはかなりの時間がかかると思われる。
平成21年の「邁進からの急な失速」を経験した自分であるからこそ、今度はゆるりと1つ1つ、温泉を楽しんでいこうと考えるのであった。
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