週4の部活が同期の変革者の行動で週6+朝練付になった話
以前部室で起こった事件を描いたが、
この時に向かっていた朝練は、同期の変革者によって確立されたものだった。
ゆるい部活に入りたかった。
推薦で高校に入学したキツネは入試面接で、ある運動部の顧問に目をつけられ入学前に仮入部が確定していた。
花の高校生活ではバイトもやりたかったし、彼氏をつくって制服デートもしたかったので、部活を真剣にやるつもりはなかった。ただ面接時には話を合わせて「見学に行きます!」と言ってしまったのだった。
頼む。緩い部活であってくれ…。
最悪厳しそうだったら顧問には謝って辞退しよう。神に祈る思いで仮入部に参加したのだが、そんな心配は杞憂に過ぎなかった。
そこは運動部の中でも一番ゆるい部活だったのだ。
週4しか活動しておらず(しかもその中の1日は自主練)練習場も離れた外の施設を借りているため、遅くまでできない。女子しかおらず先輩も気さくで優しく、上下仲も良く、漂う雰囲気も緩かった。
やったー!!これならOKです!と思い入部届を出しに行ったのだった。
夏合宿で事件は起きる
入部した1年生は未経験者がほとんどで、経験者はキツネを入れて2人しかいなかった。基礎ができているキツネは特に困ることなく部活のメニューをこなしていた。そして半年がたった夏。3年は引退試合を終え、合宿は1,2年のみで行くのだった。
初日は何事もなく終わったのだが、2日目は雨だった。
屋外活動の部活なので、雨だと通常筋トレだ。近くの体育館を借りたと連絡が入りそこに向かうと、2年生はドッジボールをしていたのだった。
「動体視力や反発力を鍛える練習」的なことを言っていたのだが、正直ドッジボールが好きだったのでキツネは一緒にワイワイやっていた。しかし時間が経つと1年生が減っていることに気が付いた。
トイレにでも行ったのかな?と体育館を見渡すと、1年生が隅のほうで円になって固まっていた。
2年の部長も不穏な空気に気付き近寄って行った。変革者が仁王立ちで腕を組み部長に何かを話していたのだが、数分すると部長は泣いていた。
花火とスイカ
気まずい雰囲気の中、先輩たちのドッジボール熱も冷め、2年のキャプテンの指示により急遽筋トレメニューに変わり17時ごろに宿舎に戻ることになった。宿舎につくと顧問が花火を買ってきていて、宿舎のオーナーもスイカを振舞ってくれた。
先ほどまでの重い空気を吹き飛ばすように、みんなで花火とスイカを楽しんでいた。
しかしまた周りをみてみると1年生の半分が円になって隅の方で固まっている。何事かと近付いてみると花火の音に驚き宿舎の犬が逃げてしまったらしい。犬が見つかると、1年生たちは花火もやらず、スイカも食べずに部屋へ帰ってしまった。私も慌てて1年の部屋に向かったのだが、すれ違い際に2年生の先輩は「去年は楽しかったのにな…」と呟いていたのが印象的だった。
合宿後の変化
変革者は1年だけがいる更衣室で「この前の合宿は衝撃的だった。このまま先輩に合わせたメニューでは上達できない。」といった。「みんなで自主練をしよう。」そういって週5+朝練(任意)が1年のみ追加されたのだった。
勝ちたいか、勝ちたくないか。2択の質問。
そして1年が経ち、去年の2年生は3年最後の試合を終えて卒業していった。後輩も入り、変革者が実権を握る時が来た。
キツネを含む2年生は部室に召集され、円になったところで変革者から2択の質問を投げかけられる。
「勝ちたいか、負けても楽しければそれでいいかでいうとどっち?私は勝ちたい。勝ちたいか勝ちたくないかで答えてほしい。じゃあ、時計回りに一人ずつどうぞ。」
「あ…、勝ちたいです」
「…どちらかといえば、勝ちたいけど…」
「うーん…。…勝ちたい…かな」
なんとも歯切れが悪い感じで「勝ちたい」を選ぶ者が続いていく。
キツネも「勝ちたい」を選んだ。
しかし後半では、「勝つことだけを考えて息苦しくなるなら、楽しくやって負けてもいい」と答える強者も現れた。しかし彼女に続く人はおらず9割以上は「勝ちたい」を選んだのだった。
変革者は数秒沈黙した後に言った。
「みんなの気持ちは分かった。勝とう。先生に話して土曜日も練習できるように調整します。」
そして我々の部活は、週6+朝練付のゴリゴリ部活に変わったのだった。
狭い地域の中では勝率は良かったものの、引退試合は角刈りの強豪校にぼっこぼこにされて、1ミリの未練もなく引退した。
今でも同期で飲み会を定期的にする中なのだが、その変革者のパワフルさ、実行力とリーダーシップは変わっていない。当時は「土曜もやるのか…」と嫌な気持ちにもなったが、振り返ると楽しい思いでしかないのは不思議なものだ。
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