ある日の美術館にて 2023.6.3
「クロードモネは晩年が素晴らしいね。視力を失っていく中で絵がどんどん抽象化していく過程は本当に興味深いよ」
「うんうん。そうだ、モネと言えばね、わたし、すごく好きな話があるんだけどね」
「お、どんな話?」
「この睡蓮の絵を観た子供がね、ここにカエルがいるよって言ったらしいんだよ。大人たちは大発見だと必死にカエルを探したんだけど見つけられなかったから、その子にカエルはどこにいるの?って聞いてみたんだ。そしたらその子、なんて答えたと思う?」
「なんだ、そういう話か。見当もつかないや。それより、ここの筆の置き方、見てみなよ」
「あぁ、残念。さようなら」
「え、なんて?」
「残念、さようならって言ったんだよ」
「あぁ、さっきの話か。いけ好かない子供だったってオチ?」
「わたしがあなたに言ったんだよ。もう一度だけ言うね。残念、さようなら」