荒れる海のサンボマスター
学生時代、『現実逃避』をしていた海。
曇り空、明日は台風。
周りには誰もいない。
なりふり構わず、出せる限界の大声で歌う。
サンボマスターの
『世界はそれを愛と呼ぶんだぜ 』
一年ぶりに実家に顔を出し、偏見や経験のメガネをかけないで、なるだけ目をクリアにひん剥いて、15年ぶりに家族を見た。
怒鳴り散らす、酒に溺れる、食器を投げる。
隔離された精神病棟のような光景は、
もうない。
父も母も、飼い犬のポチも、弱々しく老いていた。
自分の歪んだメガネで見たものは、真実だったのか?
確かめたくて、アルバムをめくる。
幼少期、父も母も、若くて元気だ。
幼い私も、天真爛漫な笑顔を見せている。
どんどん、ページが進む。
ハイハイ、立つ、歩く。
走る、泳ぐ、登る。
出来ることが増えていく写真の私の横には、
笑顔の親がいる。
もっともっと、ページをめくる。
2001年
父は鬱になった。
無邪気に笑う子供の横で、偽物になっていく表情。
張り付いたような笑顔の裏に、深い苦しみが垣間見える。
こんな日々を送っていたのか。
私は、自分が一番可哀想だと思っていた。
たぶん今でも思ってる。
あんな親じゃなかったら、
あんな環境じゃなかったら、と。
私のせいじゃないことで、どうしてこんなに苦しまなければいけないの?、と。
でも。
父は、自身のせいで鬱になったのか?
母は、自ら望んで鬱になったのか?
ぜったい、ちがう。
私のせいじゃないけれど、
父のせいでも、母のせいでも、なかった。
誰のせいでもなかったんだ。
なんとか家庭を立て直そうと、必死だったんだろう。
発症まもなくの、北海道での写真が残っていた。
ふたりとも、目が死んでいる。
なのに、手を上げて、口角を釣り上げ、
子供にバレまいと、はしゃいだ姿。
私にとって、2人は毒親だ。
たしかに、毒だった。
でも、忘れてはいけない。
彼らは戦っていた。
負けまいと歯を食いしばった。
抗おうと必死だった。
私はたしかに、被害者だ。
でも、両親だって、被害者なんだ。
そんな彼らに、向け続けた軽蔑の目。
どんなに悲しかっただろう。
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もっと、もっと大声で歌う。
これからを、どう変えていきたいかを、
身体に尋ねながら。
いつか、彼らと新しい日々をつくりたい。
悲しみで花は咲かないんだから。
世界よこれも、愛と呼んでくれ。