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乗らない馬好きはグリーンチャンネル無料放送部分こそが楽しい

出逢ってしまった『新・馬学講座ホースアカデミー』

特に集中して何かを観たいわけではないのでアマプラを起動するまでではないが、しょうもないワイドショーやバラエティや通販番組しか放送していない時間帯ってありますよね。

そういう時にもしグリーンチャンネルで無料放送をやっていたら、馬活♪馬活♪とばかりに流し見したりします。

ちなみにグリーンチャンネルというのは、中央競馬関連情報と馬事・畜産関連情報を放送している有料チャンネルです。

オリンピック馬術の無料放送をしてくださったりもしていたので、2024年の夏はかなりお世話になりました。
馬好きとしては月額会員になろうかと思う時もありますが、競馬ファンというわけでもないので今のところ無課金です。スミマセン。

で、そんな「競馬ファンじゃないタイプの馬好き」にとってうれしい内容の無料放送がけっこうあるのがグリーンチャンネル様様!なのです。

番組になっている形のものもあれば、合間にはひたすら牧場風景が流れてくるゆる~い時間帯もあります。

その中で、もしかしたら今日初めて存在を知ったかもしれない番組があって、これはバックナンバーも含めてちゃんと観たい!と思ったので紹介します。

番組名:『新・馬学講座ホースアカデミー』
番組内容:軽種馬等の繁殖・育成に係る飼養管理技術等の紹介

タイトルと内容だけだとすごく専門的で難しそうに見えますが、実際の番組は素人にもわかりやすいようにスライドを使って講師が説明してくれるので、非常に興味深く観ることができました。

軽種(けいしゅ)とは?
サラブレッド、アラブ、アングロアラブ(アア)など軽快で競走または乗用に適するもの。

出典:JRA(https://www.jra.go.jp/kouza/yougo/w478.html

生産・育成に関わる人にとっての常識も素人にとっては新鮮な驚きに満ちている

今回の講義テーマは『ホルモン製剤を用いた泌乳処置と乳母付け法』。
講師はJRA日高育成牧場 浦田賢一さんという方でした。

泌乳(ひにゅう)とは?
哺乳動物の雌が乳腺で乳汁を合成・分泌し、排出すること。

出典:日本畜産学会編・畜産用語辞典(https://animalwiki.yokendo.com/index.php?curid=4687&oldid=6187

まず「泌乳」という言葉が初めましてです。
検索すると辞書的には「ひつにゅう」が出てきますが、畜産用語では「ひにゅう」と言うようです。

また「初乳を飲むことが免疫形成のために非常に重要であることは馬も人も同じ」という説明はすんなり理解できましたが、「もし生まれた子馬が初乳を飲んだことが確認できない場合はストックしてある冷凍初乳を必ず飲ませましょう」で、生産・育成牧場には当然のこととして冷凍初乳をストックしてるのね!?といった具合に軽くジャブを食らいます。

ほうほう、馬の世界にもまだまだ知らん宇宙が広がっているのやな・・・

そして、なんとなく流し見しようと思っていたところに飛び込んできた「乳母」の文字に大きな衝撃を受けたワタクシ。

なぜなら、そんな視点をもって馬を見たことがまったくもって無かったから!

う、うば、だ、と…!?

出産時の事故などで母馬が死亡したり、育児放棄したりする可能性もあることは頭ではわかっていますが、その後どうやって子馬を育てるのかまでは考えたことがありませんでした。

そういえば野生動物を飼育する動物園ではそのような場合はたいがい、人工飼育を行いますよね。

競走馬の場合は同様に人工飼育を行う場合もありますが、出産・育児経験があって現在妊娠していない馬(空胎馬)を「乳母」にするという選択肢もあるのだそうです。

今回の放送の講師が行った乳母付けで乳母に選ばれたのは同じ日高育成牧場内で飼育されていた空胎馬だったとのことですが、適任の馬がそうして手近にいないケースも多く、その場合は乳母牧場から乳母になる馬を借りることになる・・・と、当然の前提として話は進んでいきましたが、ここでさらなる衝撃!

う、うば、うばぼくじょう、だ、と…!?

これも生産・育成や、もしかしたら競馬好きの方には常識なのかもしれませんが、ワタクシは「乳母牧場」なんていう単語を初めて知りましたよ。

先ほどのような事情で乳母が必要になった時のために、乳母を専門に飼育している牧場があるのですね。驚きです。

選ばれしオンナ

乳母になれるかどうかというのにももちろん条件はあって…

  • 出産経験があること

  • 離乳まで育児を完了した経験があること

これらは当然のことながらやはり

  • おだやかで母性が強いこと

という性格面が一番重要とのことでした。
他人の子を自分の子だと思い込んで育てることが求められるわけですので、それはそうですよね。

その点からして、子はもちろんサラブレッドなわけですが、闘争心あふれる性格のサラブレッドでは乳母には不向きということになります。

主に乳母に用いられる馬の種類としては、比較的穏やかな性格のものが多い、以下のようなものが挙げられます。

  • ハフリンガー:イタリア、オーストリア、ドイツのバイエルン地方原産。平均体高約130cm(ポニーサイズ)で、品種としての均質性が高い。

  • 重種:体重が800kg~1tを超える大型の馬で、農耕や重量物の運搬やばんえい競馬などに利用される。スピードはないが、力持ちで気性も大人しい。

ただしやはり重種馬は母乳の分泌量も多いため、サラブレッドの子馬にとっては栄養過多となり、急激に体重が増えることによる脚への負担に注意が必要とのことでした。

とはいえサラブレッドの子馬がどのくらいの量の母乳を飲むのかなあ?と思いましたらば・・・

出産直後の子馬が必要とする母乳の量は体重の約10%(50kgの子馬であればおよそ5リットル)ですが、生後10日には体重の25~30%(70kgの子馬であればおよそ17~21リットル)にまで達します。そして、5週間を過ぎると体重の17~20%になります(100kgの子馬であればおよそ17~20リットル)。

JRA(https://blog.jra.jp/shiryoushitsu/2019/09/post-5a4c.html

後ほどこの講義の中でも「体重の25%、60kgの子馬であれば15リットル必要なところ、乳母付け時点では足りないものの、哺乳の刺激やホルモン剤の継続投与で泌乳量は増えると見込んで乳母付けを継続。下痢の影響で少し子馬の体重が落ちた時期もあったが、無事離乳まで至った。」と紹介される部分があり、いやいや15リットルってだいぶ飲みますやん?とは思いました。

では人間の赤ちゃんは?と思ってすっかり忘れてしまったので調べましたら、体重1kgあたり平均150ml(15%)とのことでした。

しかも生まれてすぐの頃は30分おきに授乳というのを見て…いやいやいや、前の授乳終わって次の準備しようかなと思った頃には授乳始まる時間になってますやん?と・・・頻回授乳が3歳になる少し前まで続いた我が子の「あの頃」がフラッシュバックしてパニック発作起きそうになったのはココだけの話。まさか馬活に育児関係の地雷が埋まっているとは。

さて、そんな乳母馬ですが、乳母牧場からのレンタル料はなんと1頭150万円程度と高額です。
しかもタイミングよく乳母馬が手配できず、用意できるまで日数がかかる場合もあるそうです。

こうしてやっと乳母馬が子馬の元へやって来たとしても、乳母付けが上手くいかない場合もあるというのですからいやはや大変ですね。

ちなみに完全に人工飼育する場合も、乳母が来るまでの間に人工飼育期間が必要な場合も、馬専用のミルクというものがあるので基本的にはそれを使うようです。

人工飼育の教科書には「バケツから飲むのに早めに慣れさせましょう」と書いてあるものもあるそうですが、乳母が来るまでのつなぎで人工飼育する場合はバケツに慣れてしまうと乳母馬からの哺乳体勢を嫌がるようになる可能性があるので、なるべく低い位置で(自然な哺乳体勢に近い形で)与えるように気を付けた方がいいとのアドバイスがありました。

馬専用ミルクが用意できない場合は牛乳でも代用可能ですが、牛乳の脂肪分は馬乳の2倍あるので、使うのであれば低脂肪乳にします。
反対に牛乳には子馬に必要な糖分が足りないため、ブドウ糖(コーンシロップでも可。砂糖はNG。)を添加すると良いそうです。

そういえば、馬ミルクが存在するかどうかも考えたことがありませんでしたね。
どんな味がするのかちょっと気になります…甘みのある低脂肪乳と考えると、くどくなくて美味しそうな気もしますが、どうでしょう。

乳母馬界の技術革新!馬にも人にも負担の少ない乳母付け方法の研究開発

子馬に乳母を付ける乳母付けにはプロトコルと呼ばれるお決まりの手順書的なものがいくつか存在し、これまでは長年それに準じて乳母付けが行われてきました。

その一例として日高育成牧場で従来行われてきた乳母付けの実例が紹介されていました。

詳しくは是非放送内容をご覧いただきたいと思いますが、ざっくりまとめると・・・

  • 母乳の分泌を促すプロラクチンというホルモンを増やすため、抗ドパミン作用のある薬剤を投与する(発情を促す際にも使用するものであり、それと同量を投与する。)

  • 子馬の背中に羊膜を被せて「今産まれました」のニオイ着けをする

  • 乳母馬の子宮頚管を手技で刺激して「あら、私今出産したかしら!?」と思わせる

  • 乳母馬に目隠しをして子馬のいる部屋に連れて行く

  • 乳母馬が拒否って危害を加えたりしないか注意深く様子を見ながら、大丈夫そうなら子馬が哺乳できるようアシストする

といった具合でなかなか大変な上に、最終的に何日か乳母馬と子馬の様子を見た末に、乳母付けが成功しないこともあるのだそうです。

この現状に革新をもたらす方法として研究されているのが、コレ!

  • 母乳の分泌を促すプロラクチンというホルモンを増やすため、抗ドパミン作用のある薬剤を投与する(発情を促す際の3倍ほどの量を投与する。)

間違い探しみたいになっていますが、違いがわかりますが?

同じ種類の薬を投与するのですが、その量を変えるだけで飛躍的に乳母付けの効率が上げられて、馬と人の負担が減らせるかも!というのがこの講義で紹介された研究のキモということです。

実際の映像では、投与を受けた乳母馬は投与後ほどなくして大量に汗をかき「なんかお腹痛いわぁ」というしぐさ(後肢をちょっと屈める)を見せ始めました。

そして子馬のいる場所へ連れて行くと、はじめは子馬の方からしかアプローチがなかったものの、乳母馬も危害を加える様子はないのでハミを外したところ、数分後には「え、あら、この子、私の子かしら?」といった風に子馬を舐め始めます。

子馬を乳母馬の横へ誘導し、人の手で哺乳をアシストするうちに、子馬自ら哺乳できるようになりました。

いずれにせよ乳母馬のおだやかな性格と母性が大事!と念押ししていたので、たまたまこの例があまりにもすんなり成功したものだったのかどうかは今後さらに実施例が増えることで明らかになることでしょう。

まとめ

最後に講師から「使用する薬剤の種類については獣医師にお任せください」との注意がありました。

投与する薬剤量を大幅に増やすということはリスクもあることかと思いますので、その辺りも十分に検証が必要です。

引退競走馬の問題にスポットが当たるようになってきた昨今、人の都合でこのようにサラブレッドの生産・育成をコントロールすることにまつわる議論もあろうかと思います。

が、今生きている目の前の子馬の命をどうつなぐかという点においては、もっと馬と人とお互いに負担の少ない方法があるのなら、それが普及していけばいいなあとも思う馬好きなのでした。

「乳母牧場」が2025年最初のパワーワード!!!でしたね。

『新・馬学講座ホースアカデミー』は同月内は同じ内容で何回か見られるチャンスがあり、来月からはまた別の講義内容に変わるようです。
来月の放送も楽しみに観たいと思います。

放送スケジュールはこちら▼


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