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【電磁気学】双極子モーメント

1. 双極子とは?

正の電荷と負の電荷をもつ一組の粒子が、互いにとても近くに配置されているものを双極子(dipole)という。両者は同じ電荷の大きさを持っているので、十分に遠くからは全体として中性である。にもかかわらず、中性の粒子とは異なり、この一対の粒子は特定の方向の空間に対して影響を及ぼす。例えば棒磁石を思い浮かべると良い。

Fig 1. 磁気双極子の例

このような例は特に物理化学において、分子の極性や誘導分極、金属-配位子相互作用などを議論するときに不可欠である。

よって、双極子が生み出す電場や磁場がどのようなものなのかを知る必要がある。この記事では、二つの電荷の対が生み出す電気双極子(electric dipole)について議論する。

前述の通り、双極子が作り出す力は大きさと方向性を持つので、ベクトル量であることがわかる。この物理量を双極子モーメント(dipole moment)と呼ぶ。

2. 双極子間の距離の近似

二つの大きさを持たない粒子(電荷はそれぞれ$${q}$$と$${-q}$$)を繋ぐ直線を$${x}$$軸とし、二つの粒子のちょうど真ん中を原点とする。二つの粒子の原点からのベクトルはそれぞれ$${\vec{x}/2}$$と$${-\vec{x}/2}$$である。

Fig 2. 電気双極子を図式化したもの

このようなセッティングで、原点からのベクトルが$${\vec{r}}$$の位置における電気双極子モーメントを求めたい。まずは、それぞれの粒子から点$${R}$$までの距離$${\vec{r}}$$と$${\vec{x}}$$を用いて表現する必要がある。以下の数式では太文字がベクトルを表す。

図2より、電荷$${-q}$$と電荷$${q}$$から$${\vec{r}}$$の位置までの距離はそれぞれ

$$
|\mathbf{r} \pm \mathbf{x}/2|
$$

である。電位$${\phi(\mathbf{r})}$$は距離に反比例するので、$${\frac{1}{|\mathbf{r} \pm \mathbf{x}/2|}}$$がどのように表せるのか考えてみたい。まず前提として、$${|\mathbf{r}| \gg |\mathbf{x}/2|}$$とする。つまり、二つの電荷間の距離よりずっと離れた位置での電位・電場の近似をする。式を展開してみると、

$$
\begin{align*}
\frac{1}{|\mathbf{r} \pm \mathbf{x}/2|} = \frac{1}{\sqrt{r^2 + x^2/4 \pm \mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}} = \frac{1}{r}(1 + x^2/4r^2 \pm \mathbf{r}\cdot \mathbf{x}/r^2)^{-1/2}
\end{align*}
$$

次に、テイラー展開の近似式$$
(1+x)^\alpha \simeq 1 + \alpha x + \frac{1}{2!}\alpha (\alpha - 1)x^2 + \cdots
$$を利用すると、

$$
\begin{align*}
&= \frac{1}{r}\left[ 1 + \left( -\frac{1}{2}\right)\left( \frac{1}{4}\frac{x^2}{r^2} \pm \frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{r^2}\right) + \frac{1}{2!}\left(\frac{-1}{2}\right)\left(\frac{-3}{2}\right)\left( \frac{1}{4}\frac{x^2}{r^2} \pm \frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{r^2}\right)^2 + \cdots\right] \\
&\approx \frac{1}{r}\left( 1 \mp \frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{2r^2} + \frac{3(\mathbf{r}\cdot \mathbf{x})^2 - r^2x^2}{8r^4}\right)~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(1)}
\end{align*}
$$

ここで、$${x^3}$$以上の項は無視できるほど小さいので省いた。

2. 電位の導出

電位の公式$${\phi(r) = q/4\pi\varepsilon_0r}$$に代入する。位置$${\vec{r}}$$では負の電荷と正の電荷の両方からの電位を受けている。電磁気学における重ね合わせの原理(superposition principle)により、合計の電位はこの二つの足し合わせによって得られる。そのため、

$$
\begin{align*}
\phi(\mathbf{r}) &= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left(\frac{q}{|\mathbf{r} - \mathbf{x}/2|} + \frac{-q}{|\mathbf{r} + \mathbf{x}/2|}\right)\\
&= \frac{q}{4\pi\varepsilon_0} \left[ \frac{1}{r}\left( 1 - \frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{2r^2} + \frac{3(\mathbf{r}\cdot \mathbf{x})^2 - r^2x^2}{8r^4}\right) - \frac{1}{r}\left( 1 + \frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{2r^2} + \frac{3(\mathbf{r}\cdot \mathbf{x})^2 - r^2x^2}{8r^4}\right)\right]\\
&= \frac{q}{4\pi\varepsilon_0}\frac{\mathbf{r}\cdot \mathbf{x}}{r^3 } = \frac{\mathbf{p}\cdot\mathbf{r}}{4\pi \varepsilon_0 R^3}
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(2)}
\end{align*}
$$

ただし、$${\mathbf{p} = q  \mathbf{r}}$$は単極子モーメントである。

3. 電場の導出

電場は電位を$${r}$$について微分すると得られる。すなわち、

$$
E(\mathbf{r}) = -\nabla \phi(\mathbf{r})
$$

これにEq.(2)を代入して計算すると

$$
\begin{align*}
\mathbf{E}(\mathbf{r}) &= -\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[ \nabla\left(\frac{1}{r^3}\right)(\mathbf{p}\cdot\mathbf{r}) +  \frac{1}{r^3}\nabla)(\mathbf{p}\cdot\mathbf{r})\right]\\
&= \frac{1}{4\pi\varepsilon_0} \left[ \frac{3(\mathbf{r}\cdot \mathbf{p})~\mathbf{r}}{r^5} - \frac{\mathbf{p}}{r^3}\right]
\end{align*}~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(3)}
$$

4. 二つの双極子間のポテンシャル

まず、ある空間の原点に一つの双極子が存在し、周囲に電場$${\mathbf{E}}$$を作っているとしよう。すると、電荷$${q}$$の位置$${\mathbf{r}}$$におけるポテンシャルエネルギーは

$$
U = -q  \mathbf{r}\cdot\mathbf{E}~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(4)}
$$

で与えられる。今、二つの双極子がある空間に存在し、それらの距離ベクトルが$${\vec{r}}$$で与えられるとする。ただし、$${\vec{r}}$$は双極子の中にある二つの電荷間の距離よりずっと大きいとする。

Fig 3. 二つの双極子を持つ系の内部エネルギー

一つ目の双極子が二つ目の双極子に対して$${\mathbf{E}_1}$$の電場を及ぼし、二つ目の双極子が一つ目の双極子に対して$${\mathbf{E}_2}$$の電場を及ぼしている。そのため、

$$
\begin{align*}
U &= -\frac{1}{2}\left[ \mathbf{p}_1\cdot \mathbf{E}_1 + \mathbf{p}_2\cdot \mathbf{E}_2 \right] \\
&= -\frac{1}{4\pi\varepsilon_0}\left[ \frac{3(\mathbf{r}_2\cdot \mathbf{p}_1)(\mathbf{r}_1\cdot \mathbf{p}_2)}{r^5} - \frac{\mathbf{p}_1 \cdot \mathbf{p}_2}{r^3}\right] ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(5)}
\end{align*}
$$

同じように考えれば、一般に二つ以上の多数の電荷を持つ粒子の系を考える場合、この系が持つエネルギーは次のように与えられるとわかるだろう。

$$
U = -\frac{1}{2}\sum_{i}\sum_{j ≠ i}~q_n\mathbf{r}_n\cdot \mathbf{E}_{j \rightarrow i}~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~\mathrm{(6)}
$$

5. 四極子・八極子

二つの双極子が十分に近く、双極子間の距離$${r}$$が双極子内の二つの電荷間の距離$${x}$$と大差ない場合、上のように考えることはできない。この場合、四つの電荷で一つの塊と見て計算する必要がある。これを四極子(quadrapole)と言う。

双極子と同様に計算することで、電場、電位を以下のように得られる。

(作成中)

これらをまとめて多極子(multipole)と言う。多極子モーメントの計算は、二つ以上の電子が作り出す複雑な軌道などを計算するために必要である。

参考文献

  1. Martin G. Olsson and Vernon Barger, "Classical Electricity and Magnetism: A Contemporary Perspective", Allyn & Bacon, 1987.

  2. D. J. Griffiths, "Introduction to Electrodynamics", 4th ed. Cambridge: Cambridge University Press, 2017.

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