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「理想を叶えた自分のほうが、ずっと幸せだと思った」作家・田中青紗さんに聞く、ライターから次の夢への結び方

あちこちで「多様化」が見られるようになった昨今、キャリアにおいてもさまざまな選択が尊重されるようになってきました。

その一端として、「時間や場所を限定せず、好きなことを仕事にしたい」という想いからキャリアチェンジを決意し、ライターの道を歩み始める方が増えています。

しかしながら、転身した後にどうやって仕事を「好きなこと」につなげていくのかがわからず、次のステップに踏み出せずにいる方も多いのではないでしょうか。

今回は、作家・ライターとして活動されている田中青紗さんにお話を伺いました。

フリーライター5年目の春、とあるきっかけで夢に向かって歩み始める決意を固めたという田中さん。ライターから作家へ方向転換するためにどう動いたのか。現在も悩みながら夢に向かって歩む等身大の想いや、悩みを抱えるライターに向けたアドバイスをいただきました。

photo by キコ

インタビュイー:田中青紗
テレビ番組制作会社勤務からフリーライターへ転身。現在は、取材・コラム・短編小説を中心に執筆中。「まだ夜が明けてほしくないと思う人が、布団の中で読みたくなる文章を書く」を信条に、作家の夢に向かって続々と作品を発表している。お茶の時間と朝ごはんが好き。

ライター「田中さやか」が作家「田中青紗」になるまで

───早速ですが、田中さんについて教えてください。

フリーライターをしながら作家を目指している、田中青紗と申します。新卒で入ったテレビ番組制作会社を退職し、2017年にフリーライターになって今年で7年目です。現在はライターのお仕事をしながら、noteを中心に創作活動を行なっています。

───映像から文章の世界へ飛び込んだのですね。なぜライターになろうと思ったのですか?

子どものころから小説を書いたり、社会人になってからは友人とブログを運営したりと、ずっと文章を書くのが好きだったんですよ。

そんなこともあり、映像制作の仕事をしながら、「映像よりも文章のほうが、自分の発信したいことを表現しやすいのではないか」と思い、フリーライターに転身しました。

フリーライターを始めたころは「田中さやか」という名前で活動していて、当時はただ、「文章を書ける仕事をしたい!」としか思っていませんでした。

でも、ライター3〜4年目あたりで仕事をたくさん抱えすぎてしまって。そのタイミングで改めて、自分は文章を通して何を発信したかったのかを考えるようになったんです。

───ご自身が何をしたかったのか、当時はどんな方法で振り返ったのでしょうか?

ちょうどそのころ、お仕事以外でも文章を書く場を持とうと、noteの毎日投稿を始めたんです。noteを書くことは、モヤモヤしている自分の気持ちを見つめ直す機会にもなりました。2年ほど、毎日更新していましたね。

自分のための文章をnoteで公開していく日々のなかで、少しずつ創作の楽しさも知っていきました。

───2年間毎日…すごすぎます! 本格的に作家の夢に向かって活動していくきっかけはなんだったのでしょうか?

転機になったのは2021年の春、フリーランス仲間との旅行に出かけたときでした。夜の高速道路を走る車内で、自分の理想の生活について語り合っていたんです。当時の私は「仕事は充実しているけれど、今のままではモヤモヤする…」そんな状態だったんですよね。

そこで友人から、「さやちゃんは、何をするのが好きなの?」「究極の理想を言うなら、どんな生活をしていきたい?」と問いかけられるなかで、自分でもぼんやり抱いていた「創作がしたい」という夢がくっきりと見えてきて。

「今の生活をずっと続けていたら、きっとさやちゃんはずっとライターのままだよ」という友人の言葉に、ポンと背中を押された気がしました。現状を変えよう、ライターの私から、作家を目指す新しい私「田中青紗」になって再出発しよう、と決意できたんです。

▲ライターから作家に立場を変えたときの変化が綴られたnote

───ライターとしての名前や、過去に積み上げてきたものを手放すのは、不安な気持ちもあったのではないかと思います。何が原動力になったのですか?

理想を叶えた自分の姿をイメージしたとき、今よりずっと幸せに違いないと思えたのが大きなモチベーションになりました。

名前を変えようと決めたとき、「田中青紗として創作活動している自分はどんな姿だろう」と、かなり鮮明にイメージしたんです。緑に囲まれた書斎で創作活動をして、紅茶やコーヒーを味わう時間を楽しんだり、近所のパン屋さんやカフェに足を運んだり…。リブランディングだと思って丁寧に考えていきました。

読者の方には、作品はもちろんのこと、「田中青紗」という私自身のことも好きになっていただけたらなと思っていて。なりたい自分の姿や世界観は、今でも都度ブラッシュアップしています。

突然、仕事がぱったりと来なくなる。決意の裏で起きたこと

───「田中青紗」さんとして活動するようになって、ご自身を取り巻く環境はどのように変わりましたか?

最初に気になったのは、SNSでのフォロワーさんの反応でした。名前を変えて活動していくと公表し、同時にアイコンやバナー画像、プロフィール文なども一新したら、一気にフォロワーさんが200人くらい減ってしまったんです。

さらには、それまでいただいていた、ライティングのお仕事依頼のDMもぱったりと来なくなってしまって…。

「ライターとしてではなく、作家としての自分を見せることができたんだ!」と、最初は嬉しく思いました。とはいえ、お仕事が減ると生活ができないし、そういった不安が輪をかけて、自分の作品は世の中の需要に応えられるものなのかもわからなくなり、心がざわざわしてしまって。

───突然の状況変化で、不安は本当に大きかったと思います。当時はどうやって心のざわざわを乗り越えましたか?

そのときも、友人の言葉に助けられました。

新たな転換点では、こういったことは通過儀礼のようなもの。このまま進んでいけばまた新たなファンに出会えるかもしれないし、一度は離れた人もまた戻ってきてくれるかもしれない。方向転換するときには必ず起こるものだから気にしなくていい」

そんな励ましの言葉をかけてもらい、気持ちもだいぶ落ち着きましたね。

───ご友人の存在が、田中さんを支えてくれたのですね。現在はライターと創作活動、両方のお仕事を並行されているのでしょうか。

お仕事のバランスについては、実はまだ模索している状況なんです。お仕事が減ってしまった状況から、ここ半年くらいでなんとか立てなおしたものの、どれくらいライターのお仕事を受けて創作に向かう時間を確保していくか、悩みながらちょうどいい状態を探しています。

今はライターの比率が高いのですが、いずれは創作のお仕事も増やしていきたい。それまでは、自主制作作品をたくさん用意しておこうと考えています。

───お仕事も続けながら創作にも注力されているなんて、本当にすばらしいです。これまで発表されてきた作品は、どういった部分に着想を得て創作されてきたのですか?

主に、自分の実体験や日常のなかで感じたことから膨らませています。取材ライターというお仕事柄、たくさんの方からお話を伺いますし、友人や立ち寄ったお店での何気ない出来事をテーマにすることもあります。登場人物の心情描写に自分の経験を投影させることが多いですね。

ですが、これもあくまで現時点での話で、今後は取り扱うテーマや書くテイストなども変えて、いろいろなジャンルに挑戦していきたいと思っています。

何かひとつ、目指すものを「決める」ことが次に続く一歩に

───近年、新しいキャリアとしてライターに転身する方は増えてきていると感じます。ライターとして活動している方に向けて、スキルを磨くためのアドバイスはありますか?

やはり、たくさん文章を読むことが大事かなと思います。表現力や語彙力、構成力や企画力などを身につけるには、多くの文章に触れるのが一番かなと。

もし、創作の道に向かいたいと思っているのならば、ご自身のスタイルを見つけるためにもたくさん小説や文章を読んで、好きなテイストの作家さんを見つける。そしてその方のテイストに寄せた文章を書いてみるんです。

あとは、書いた文章を誰かに読んでもらって、アドバイスをもらうのもおすすめです。客観的に、でも愛を持って真摯にアドバイスをくれる方にお願いするといいかも。私も、これまで発表した小説は友人に読んでもらって、具体的なアドバイスをもらいながらブラッシュアップしてきました。

───実際にアウトプットを重ねたのち、仕事につなげていくうえではどういったことが大切だと思いますか?

自分には何ができるのか、何をしていきたいのかを発信することが重要だと思います。というのも、とあるメディアで連載小説のお仕事をさせていただいたことがあるのですが、そのきっかけがまさに発信だったんですよ。

もともとお付き合いがあった編集者さんが私のSNSを見て、「小説を書きたいなら」とお声をかけてくださって。

もちろん待ちの姿勢だけでなく、自分からアクションを起こすのも大事です。憧れのメディアがあるなら、その媒体に自分が書きたいことを絡めて、企画提案するのもいいと思います。

───もし、自分が将来何になりたいのかわからなくなってしまったら、まずは何をしたらいいと思いますか?

はっきりとはわからなくても、まずは何かひとつ目指すものを決めてみるといいかもしれません。

少しでも興味があれば、期間を決めてその目標に向かって頑張ってみる。私は「作家になる」と決めたことで、発信内容やプロフィールを変えるなどの行動につながったので、決めることで未来が広がっていくんだと感じました。ひとつに絞るのが難しかったら、いくつかの選択肢を同時に残してもいいと思います。

過去の私が友人の言葉で気づいたように、悩んでいるだけでは現状は変えられません。仮の状態でもいいから何か目標を決めて、動いてみることで次につながっていくのではないでしょうか。

私もまだまだ道半ば。つねに悩みながらの日々ですが、それでも前に進んでいけば何か見えてくるものがあると信じています。

───大切なアドバイスをありがとうございます。最後に、田中さんの今後の目標を教えてください。

もっと創作のお仕事を増やしていけるよう、引き続き作品をたくさんつくっていきたいです。そして、その作品を持って新たに営業をしたり、小説のコンテストにも応募していきたい。

そしていつか、自分の書いてきた作品を束ねて、書籍として手に取れる形で世の中に届けられたら嬉しいです。

田中青紗さんの小説「今夜、ご自愛させていただきます」連載中!

ご自身のnoteを中心に、精力的な創作活動を続ける田中青紗さん。数年前、年齢を重ねた折りに感じたアイデンティティ・クライシスの経験から生まれた小説、『今夜、ご自愛させていただきます』がnoteにて公開中です。

今自分自身の進む道に悩んでいる方にも、「ご自愛」のなかで自分を知っていく大切さを思い出していただける素敵な作品です。

全12話中、現在8話まで公開されているので、田中さんのnoteアカウントからぜひご一読ください。

〈取材・文=なりー(@Nalie0923RB)/編集=いしかわゆき(@milkprincess17)〉

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