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2023年10月の記事一覧
杳として知れず ① 病室にて
「彼女を見かけたのは、事故が起こる一ヶ月前です。学校から塾の帰りに立ち寄る商業ビルに向かう途中で、うずくまる彼女を見かけました」
慌ててかけたメガネには、初夏の窓の景色は青茂る木々が風に揺れている。
だがその音がこの部屋に届くことはない。僕は窓から見える、日々変化する風景を眺めながら、そこで騒めく爽やかに揺れる風について想像する。窓を開ければ、てっとり早くそれは感じられるが、今は憚れる事態
杳として知れず ② 現在まで
一ヶ月ほど前、僕は別の学校の女生徒が、暴力を振るわれている現場に遭遇した。
加害した連中はクラスメイトを含む、同じ塾に通う他校の連中だ。彼らは仲間にしようとしたが拒否した僕を、塾や学校での退屈凌ぎの標的にした。
一週間後、その被害に遭った女子生徒は商業ビルから転落する事故に遭い、それに僕も巻き込まれた。
たまたま歩いていた僕の元に、転落した少女が落下したのだ。幸い、二人とも命は取り留
杳として知れず ③ 彼女がいる夢の街
僕が入院してからというもの、どことなく病院スタッフたちによるやり辛そうな雰囲気を間近に感じていた。確かにスタッフからすれば、勤める病院の愚痴や軽口はおろか、ガス抜きの噂話など普段通りの会話を患者である院長の息子に聞かれては困る。
しかも先ほどの弁護士を装い侵入した男の撃退に、自己防衛目的の動画撮影が役立ったことは、同時にスタッフには密かに自分達が監視されていると不快感を抱かせる副作用を及ぼし
杳として知れず ④ 展開
体が限界に達し、また二日ほど睡眠での回復に専念したのち再び目覚めた現実では、僕の知らぬうちに事態が急展開を迎えていた。
久方ぶりの睡眠により休息し、疲れが取れたのか症状は落ち着きを見せ、ごく普通の生活リズムを取り戻していく。おかげで体はどんどん楽になり、心身ともに不安定さのない回復傾向が見られるようになる。
しかし体調が回復した代償か、あの夢の街へ戻ることが出来なくなっていた。
杳として知れず ⑤ 再会?
久方ぶりとなる夢の街で僕は、たどり着いた時から自由を奪われている。
まるで体が勝手にプログラムされたかのようにしか動かせず、その様を体の奥底から状況を見つめるしかない。なんなら、僕という意識が体から切り離されている。
視界の端から時折見える、覚えのある女子の制服と動作で、これは落下した日の彼女の追体験だと悟った。絶えず吹き付ける強いビル風と共に、不安に煽る背後からの嘲りが聞こえ、小突かれ