ひとりで暮らしてみてはじめて気づいた、私がほんとうに好きなこと
帰宅してドアを開けたとき。玄関から見える1Kの狭い部屋の景色が目に入ると、「わたしはここで生きていくんだ」という決意が蘇ってくる気がする。
わたしはたぶん、この部屋を気に入っている。
都内に実家があると、なかなか実家を出る理由が見つからない。その方がお金が貯まるとか、まだ家にいていいよという親からの甘い誘惑のことばを素直に受け取っていたら、子ども部屋おばさん、通称“こどおば”の私が仕上がってきていた。
恋人が一人暮らしをしているので、同棲すればよいじゃないかと言われることも多い。それでも私は、“1人で生活する”ことを体験したくて、都内で一人暮らしすることを選んだ。
一人暮らしをしてまだ2ヶ月しか経っていないけれど、やってよかったと思うし、これはやっておくべきだな思った。
大変なことも多い。
光熱費は高いし、床にはあっという間にほこりがたまる。
せっかくお給料が入って潤っていた銀行口座の残高が、2日後には家賃引き落としでがくんと下がる。
1人で生きること、都内で生きていくことの大変さを身に沁みて感じている。
短期的に考えたら、実家にいた方が貯金は貯まる。誰かとふたりで暮らした方がコスパが良い。
だけど、1人で暮らすにはどれくらいのお金がいるのか、どれくらいの頻度でどんな家事をしなければいけないのか、というのがわかってくる。
今後の人生で誰かと暮らすとしても、生活コストや家事ルーティンの感覚を掴んでおくことは重要なのではないかと感じている。
1人で暮らしてみて初めて気づく自分自身の新たな一面や好き嫌いもたくさんある。
親が牛乳好きだったから実家ではいつも牛乳のストックを切らさないようにしていたけど、私はグレープフルーツジュースのストックが切れたときのほうが悲しいということ。
だけどグレープフルーツは飲み過ぎるとお腹を悪くするから、毎日飲まないほうがよいということ。
しょっぱいおせんべいではなく甘いおせんべいが好きで、ストックしておきたいこと。
ほんとうは床掃除が好きで、床掃除なら毎日だってできること。
実家という“親が選んだもの”に囲まれた家の中にいたときには気づかなかった自分のほんとうの好きが浮き彫りになってきた。
だけどなんだかんだ、さみしい瞬間もある。
ひとりはすきだけど、なんだかんだ毎日朝から晩まで誰とも話さないと病みそうなこと。
そして自分ひとりのためだけに、自分でごはんをつくることもたいせつな時間だということ。
生きることは、食べること。
食べることは、生きること。
自炊は、自分をすこやかに、そしてごきげんにするための心強いまほうだと学んだ。
わたしはここで、ひとりで生きていく。
それはさみしいことじゃない。
一人暮らしをして、わたしはわたしのことを前よりも少しわかった気がする。
前よりも、“生きている”という感覚がある。
私は明日も明後日も、この家に帰ってくる。
その度に、“私はここで、ひとりで生きていく”と決めたときのことを思い出すだろう。