蛍の想い出
わたしが子どもの頃過ごした故郷は田舎だったし 自然が当たり前にあった。
夏は 今の如く狂ったように暑くなく 日も落ちれば 涼風が吹いた。
田んぼの畦道の水路には 夕暮れを知らせるように蛍が飛び交い 親に許しを得て近所の水路の脇へ蛍を見にゆくのは 夏の短夜の楽しみの一つ。
夕涼みを兼ねて どこかしらの近所の大人が出てきて子どもたちを見守り なんとも長閑かなよい風景だった。
わたしは一度虫取り籠に いっぱい蛍を採り 大人が止めるのも聞かず
持って帰った。
淡い薄い緑色の灯火の虜になったから。
その夜 中庭を望む和室の自室の頭の上に籠を置き 悦に入って眠った
翌朝 哀れな蛍の小さな亡骸の山を見て 大泣きしたのは想像の通り。
蛍は儚い。
短い命を懸命に燃やす。
二度と蛍を採るなんて残酷なことはしなくなったのは言うまでもない。
剥き出しの命の火は脆い。脆いから美しい。そして子どもは残酷だ。
わたしはわたしの手で奪った命の一つ。祖母に言われた。
なんで 蛍を採るな、と言うたかわかったじゃろ?ちゃんと謝りなさい。と。
最早、ただ近所を歩くだけで 蛍を見られる環境に住めることはなかなか難しい。
これは割と簡単に 辺りに蛍がいた頃のお話。夢のように遠く感じるけれど、日本にはそんな幸せな頃があったんだよね。
おもひでは 軽き痛みを
伴のふて ゆふひと同じ色を
してゐる
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