【短歌連作】金継ぎ(抄)
「おおきく口をあけてあーっと鳴きなさい」濡れてきれいな銀の探針
歯を放りあげて届かずおちてくるおちてくる取り返しつかなさ
地下鉄に飛び乗り汗がひくまでを誰とも目を合わせずにいられた
引っ掻けば白く傷つく・よく走る わたしと車の似ているところ
藤棚をてのひらを傘に仕立てあげいつだって勘違いしている
オブラート包みのくるみ餅だろう星のない夜に味があるなら
きらきらのものはおおむね不燃ごみ 左右非対称に笑んでみる
銃創のようにいくつも唇のしるし重ねるコーヒーマグに
撫でているうちに増えたらいいのになあなたの頭にありがちな穴
ボールペンインクを舐めて巡らせるほとんど出来心の名推理
きみの架空の理想の海は凪いでいるひかりのひと欠片も返さずに
電子レンジに鍵を隠して帰り方わからないなら出て行かないで
熱風にひらめきふくらむカーテンの母親でないならなんでしょう
これ以上がらくた増やさないでよとかさぶた掻きながら言われおり
広告を上から順に消していく あてどなく死ね死ね言っている
かじっても味しない鮭のぬいぐるみ酸素ボンベとして抱いて寝る
オンリー・ユー オンリー・ユー・アー・紙の城 涙でこんなにちぢんでしまう
伝承になればなるほど伸びていく寿命だとして信じてはだめ
かなしみが染みついていればいいなんて不潔なドレスコードいらない
あなたはあなたで愛にふくれて生きている 音に合わせてすこし揺れてる