【短歌連作21首】新生活
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崖を見てから崖の語彙 はなむけは少し野蛮になるものだから
足音で自己紹介を。見逃したドラマみたいにずっと待ってた
お神輿に乗り込むときの体勢でお腹にいたの?縁起がいいね
横顔にそのための色 今あなたに覆いかぶさる色 天の蓋
にょきにょきと夢が隣り町を目指し友だちの青い窓を叩いた
日常会話が扉を開けて待っている ね 宇宙で暮らす生き物たちよ
内覧に向かう車のごきげんな弾みをずっと思い出せそう
落書きのこの褪せ方がいいんです、と指をさされた壁に絵手紙
不動産屋さんがかみさまにも見える うそうそ いっしょに上から線路見ただけ
髪の毛をちりちりにして毎日をオセロのように跳ねてあそんだ
白い服には白い虫ほろほろと寄り来て新生活を祝った
窓と鏡は兄弟だけど鏡は映る人を選べない
降り積もるまゆげを拭う化粧台 顰蹙の買いどきは今だ って、
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わからないから読唇はやさしくてガラス越しに微笑むバニーガール
あなたが深く詩集に垂らす頸の根を断頭台のかがやきで見る
まるまると背中を曲げてかくまっていたものがわからない自分でも
雨粒と雨粒の揺るぎない撤退戦 いつまで音にかまけているの?
手が言葉をつむぎ出す気持ち悪さをわかってもらえても気持ち悪い
「目に入るものがなんでも詩になればいいけどそこに私はいない」
美しいわけがない聖戦だった テールランプが濡れる下り道
霊媒尽きて今の気分にふさわしい音楽を何時間も探した