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じゃりじゃりゼリー

じゃりじゃりゼリーを、私は作っているんですよ。 
味付けはね、まあ、色々とできます。「お好みに合わせて、いかような味にでもいたしましょう」と、いったところです。でも、当たり前ですが、人気の味とそうでもないものはありますよ。

だいたいこの手の食品はどれもそうでしょうけど、どうにでも味付けできるってところはありますね、正直なところね。 ただ、やはり「じゃりじゃりゼリー」の場合は食感が独特なもので、他の食品とは人気の味が少し違ってくるかもしれません。

ええ、言うまでもありませんが、食感は口に入れればすぐにわかります。いいえ、口に入れなくてもだいたいの食感は想像できるのではないでしょうか。じゃりじゃりしているし、そうかといって、するっとぬるっとゼリーっぽい感じもあるわけです。

はじめて口にしたころは、その食感に耐えるのがつらくて、これが難儀なもんなんですけど。でもね、何事も要は慣れです。 慣れてしまえばこっちもので、すぐに貴方もじゃりじゃりゼリーの虜になることうけあいですな。知らずしらずのうちに、今どき流行りの「じゃりってるナイスガイ」の仲間入りとなるわけです。

売り出せば儲かることは間違いありません。第一に競合相手がいませんしね。それにちょっと考えてみてくださいよ、じゃりじゃりしているゼリーなんて一度食べたら、もう忘れられず病みつき、癖になるに決まっています。

でもね私はね、じゃりじゃりゼリーで商売をするのには躊躇いがあるんですよね。今まで私を信じて、密かにじゃりってこられた方々に対して、後足で砂をかけることになるんじゃないかって気がしてね。そうなるともうじゃりじゃりに歯止めがかかりませんので。

ただ「作り方を教えて欲しい」って人は、ひっきりなしに押しかけてきますよ。たまったものではありませんね。じゃりじゃりゼリーの製法は秘伝中の秘伝ですよ。そうやすやすと教えていいもんじゃないんです。

「作り方を教えてくださいませ」と、やって来た人の中にはこんな人もいました。えーと、とりあえず、ここではその人のことを「じゃり子ちゃん」と呼んでおきましょうか。じゃり子ちゃんは、どうやら「じゃりじゃりした何かがゼリーに混ざっている」と、考えていたようです。だから、その「じゃりじゃりした何か」を教えてもらえれば誰にでも簡単にじゃりじゃりゼリーが作れるものだと高を括っていたのでしょうな。

けどね、じゃりじゃりゼリーはそんな生やさしいことで作れるもんじゃないんです。そんなことで、じゃりってられんならさ、誰も苦労しないってもんでしょうよ。じゃりじゃり舐めるなってことです。

私が製法を教えることをきっぱり断ったものですから、じゃり子ちゃんはあきらめて、すごすごと帰っていきました。それで、じゃり子ちゃんは今どうしてるかっていうと、そうそう「じゃりじゃり焼き鳥」の屋台をはじめて、けっこう繁盛してるらしいですよ。

その屋台の周辺はいつでも焼き鳥のタレの匂いが絶えないとかで「旨そうでたまらん、四六時中食べ続けたくなって困るから他所へ行ってくれ」と、苦情がくるほどらしいです。

じゃりじゃり焼き鳥ってえのは、えーとあれですよ、砂肝ですか。「砂肝はタレじゃなくて塩だろ」って言う人もあるかもしれませんが、そうした固定概念を覆したところにイノベーションはあるのですよ。

実はちょっと気になったもので、私ものぞいてみたことあるんですよ、その屋台をね。そしたら、じゃり子ちゃんは私を見つけるなり、
「あんたがケチ臭いこと言って、じゃりじゃりゼリーの作り方教えてくれないから、この『じゃり鳥屋台』を始めたんだ。おかげで大儲けだよ。売れてうれて金がじゃらじゃらよ」
なんて言ってきやがったんです。

私はなにもケチで教えなかったわけじゃないんです。困った勘違いです。私は教えてもだいじょうぶな人かどうか、ちゃんと見極めてから教えるようにしてるんですよ。それが教える側の責任ってもんじゃないでしょうかね。

砂肝のことを、じゃり鳥なんて呼ぶ輩に秘伝を教えてしまったら、いずれ世の乱れを招き、人心は荒廃し、天の怒りをかうこと必定と心得ております。だから慎重のうえにも慎重を期して万事に臨まなくてはなりませぬ。

皆さんにも、ぜひ、ご自分の責任よくお考えて事に当たるようお願いしておきます。

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鳴蛍しかと(なきぼたるしかと)
今後ともご贔屓のほどよろしく御願い申し上げます