河野犬男オリジナル
確かに何かが犬男の身に降りかかろうとしていた。犬男もすでに尋常でないものを感じていて、表面はとりつくろっているものの、自分が可愛くて、死にたくない気持ちが強く、発狂寸前だった。
人通りの多い、ゴミゴミした道路を犬男は歩いている。某ビルの地下に降りる階段を見つけて、何も考えずにそこを降りた。地下にCDショップの入口を見つけた犬男は、店内に入ると奇声を上げた。関わるのを恐れて誰も犬男を見ようとしない。犬男はスキップしながら『ワールドミュージック』の棚に向かった。そこには女が1人いて、顔はヤケドにより原形を留めておらず、何事かうめき声を上げていた。
犬男は女と向き合って、その女が白人女性だと判断した。そして、犬男の背後には包丁を構えた男がいきり立ち、犬男に「お前!!順番を守れよ!」と大声で問いかけた。
「順番を守れ?!何の順番だよ?!無礼なヤツだな、お前は!」犬男が言葉を返すと顔を斬られた。包丁男は、たまたま通りかかった白人男を2人刺してその場から逃げた。
白人女性は顔から血を流し続ける犬男を見て、震えていた。犬男が言葉を発しているが、白人女性には聞き取れない。
地震が起きて、犬男は逃げようとしたが、倒れて体が動かない。はいつくばって地下から階段をのぼって外に出ると、助かるのかもしれない。しかし、どうしようもない。
白人女性はいなくなり、黒人女性が犬男の前に現れた。
犬男は黒人女性に対して差別的な言葉を吐いて、視界から消えろと怒鳴った。黒人女性は、犬男に大声で抗議した。店内のスピーカーからラップが大音量で流れて、その曲は犬男に対する個人攻撃のラップだった。犬男のかけていたメガネがずれた。
「あと2回、メガネがずれると、あなたは死ぬよ」
と天井から声が聞こえてきた気がした。犬男のメガネは2回ずれた。
犬男は、天井からの声を空耳と決めつけて、笑おうとして歯が痛くなった。足から火がついて燃えさかり、熱いのか痛いのかよく分からなかったが、自分は死ぬんだな、と一瞬冷静になり、おのれが本当はいい人だったと気づいた。いい人は早く死ぬから、こうして火だるまになっても、当たり前の話である。